最新記事

原始地球

仮説上の天体『テイア』の遺物が地球深部に存在する、との説が発表される

2021年3月25日(木)19時15分
松岡由希子
大規模低せん断速度領域(LLSVPs)

テイアは、地球深部に存在したのか...... (Geochemistry, Geophysics, Geosystems, 2020)

<約45億年前に火星くらいの大きさの天体「テイア」と原始地球が衝突し、月ができたとする「ジャイアント・インパクト説」。その天体「テイア」が、地球深部に存在するとの説が発表された......>

月の起源については、約45億年前に火星くらいの大きさの天体「テイア」と原始地球が衝突し、周囲に拡散した破片が集まって月が形成されたとする「ジャイアント・インパクト説(巨大衝突説)」が広く知られているが、テイアの存在を示す証拠は未だに見つかっていない。

●参考記事
「地球の内核に新たな層が存在する」との研究結果

テイアは月よりも大きいと考えられており、残された物質の行方も不明だ。

1280px-Artist's_concept_of_collision_at_HD_172555.jpg

ジャイアント・インパクト説(巨大衝突説)ーNASA

地球の核-マントル境界にテイアの遺物が残されている

米アリゾナ州立大学の博士課程に在籍するチェン・ユアン研究員は、2021年3月にオンラインで開催された第52回月惑星科学会議(LPSC)で、「地球の核-マントル境界にある『大規模低せん断速度領域(LLSVPs)』にテイアの遺物が残されているのではないか」との説を発表した。

アフリカと太平洋には、広範囲にわたって地震波の伝播速度に異常がみられる「大規模低せん断速度領域」が存在する。その質量は月の質量よりも大きく、地球の質量の2〜6%を占める。

「大規模低せん断速度領域」は、月の形成に至る衝突があったときから存在していたと考えられている。米カリフォルニア大学デービス校のスジョイ・ムコパディヤーイ教授は、ハーバード大学在籍時の2012年に発表した研究論文で、アイスランドで採取した海洋島玄武岩(OIB)を分析し、「大規模低せん断速度領域」が月よりも前に存在したことを示した。

「密度の大きいテイアのマントルが地球の最下部マントルに沈み込んだ」

テイアのマントルは、地球のマントルよりも密度が高いと推測される。フランス国立科学研究所(CNRS)らの研究チームは、2014年に発表した未査読の研究論文で、地球と月のケイ酸塩マントルの化学組成を用いてテイアのマントルの化学組成をシミュレーションし、「テイアのマントルの密度は地球よりも2〜3.5%高い」と推定した。

ユアン研究員らの研究チームも、テイアのマントルの密度をシミュレーションし、「テイアのマントルの密度は地球よりも1.5〜3.5%高い」との結果を得ている。このことから、ユアン研究員は、「密度の大きいテイアのマントルが地球の最下部マントルに沈み込み、『大規模低せん断速度領域』をもたらす『サーモケミカル・パイル(密度の大きい物質が蓄積した高温の領域)』に蓄積されていったのではないか」と考察している。

月と「大規模低せん断速度領域」は大衝突による「ふたごの産物」か

ユアン研究員は、「大規模低せん断速度領域」が非常に大きく、月が形成される前から地球に存在し、テイアのマントルの密度が地球のマントルよりも大きいことを根拠として、「『大規模低せん断速度領域』にテイアの物質が含まれている可能性がある」と主張。「この突拍子もない考えはあり得る」とし、「月と『大規模低せん断速度領域』は、テイアと原始地球との大衝突による"ふたごの産物"かもしれない」と述べている。

2021_LPSC_Yuan

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=大幅安、S&P調整局面入り 貿易戦争

ワールド

トランプ氏「グリーンランドは安保上必要」、NATO

ワールド

ウクライナに強力かつ信頼できる安全保証を、G7外相

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、ポジション調整の動き
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ?
  • 3
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 4
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 5
    SF映画みたいだけど「大迷惑」...スペースXの宇宙船…
  • 6
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 7
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
  • 8
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 9
    「トランプの資産も安全ではない」トランプが所有す…
  • 10
    「紀元60年頃の夫婦の暮らし」すらありありと...最新…
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 3
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 6
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 7
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 8
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 9
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 10
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中