最新記事

日英関係

英国は日本を最も重視し、「新・日英同盟」構築へ──始動するグローバル・ブリテン

2021年3月16日(火)17時55分
秋元千明(英国王立防衛安全保障研究所〔RUSI〕日本特別代表)

また、20世紀後半から現代に至るまで大国が関与した実際の軍事行動をみると、1990年代の湾岸戦争、21世紀のアフガニスタン、イラクでの戦争など、すべてが同盟条約に基づく侵略対処の戦争ではなく、有志国家連合によるものであった。

つまり、現代の同盟の目的はかつてのような軍事同盟とは大きく異なっている。

例えばNATOの現在の主任務は、サイバー戦争、ハイブリッド戦、テロ対策、宇宙作戦など包括的な安全保障協力であり、侵略への対処に重点を置いてはいない。NATOはかつての軍事機構から欧州安全保障のための国際機関に変貌しつつあるのだ。

だから、新しく誕生する新・日英同盟にしても戦争に備える軍事同盟である必要はなく、NATOのように安全保障のあらゆる分野で協力し合う包括的な同盟体制をめざすものでなくてはならない。

中国・ロシアの台頭、英国はTPP、クアッドへ向かう

英国がEUを離脱し、インド太平洋への関与を始めた背景には米国の国際的影響力が低下していて、それに乗じて中国・ロシアによるユーラシア権力が台頭していることがある。それによって、東西冷戦の終結以来続いてきた旧西側の自由主義国家群の力の優位が急速に崩れつつある。

世界は今や、中ロが主導する権威主義的なユーラシア権力と、欧米や日本が主導する自由主義陣営が対峙する厳しい時代に入りつつあるのだ。

そうした中で、日本や英国、米国など自由主義陣営が重視しているのがインド太平洋戦略である。英国が新しい戦略の要として日本との同盟を重視するのもそのためである。

インド太平洋地域は将来、世界GDPの60パーセント、世界人口の65パーセントが集中すると言われている。それはこの地域が将来、世界の政治・経済の中心になることを意味している。したがって、この地域の安定を維持することはアジア諸国だけではなく、欧米諸国にとっても死活的に重要なテーマとなる。

この地域は海洋国家が多く、地域の繁栄はすべて海洋交易によって成り立っている。したがって、この地域の海洋交通路はどの国にも開放されなくてはならず、この地域で特定の国や勢力が覇権を確立することは許されない。日本が主導している「自由で開かれたインド太平洋」という構想もそのためにある。

英国はインド太平洋への関与の手始めとして、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)への参加を決定した。TPPは単なる経済協定ではなく、同じ価値を共有する同盟としての体裁を合わせ持っている特徴がある。

しかも、参加国11カ国のうち過半数の6カ国が英連邦加盟国である。そこに英国が参加することはTPPが英国を中心とした世界的な枠組みに発展することを意味する。

また、英国は近く、日本、米国、オーストラリア、インドが加盟する4カ国の枠組み、通称「クアッド」へ参加することを検討している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた

ワールド

トルコ中銀が2.5%利下げ、インフレ鈍化で 先行き

ビジネス

トランプ氏、ビットコイン戦略備蓄へ大統領令に署名

ビジネス

米ウォルマート、中国サプライヤーに値下げ要求 米関
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中