英国は日本を最も重視し、「新・日英同盟」構築へ──始動するグローバル・ブリテン
日英が「同盟国」と呼び合うのは、およそ100年ぶり
そして、そのために英国が最も重視した国こそ、アジアの最大の友好国、日本であり、日本との関係を同盟関係に引き上げることだった。そして、その行動は迅速に行われた。
演説からおよそ2週間後の8月31日、メイ首相は日本を訪問し、安倍晋三首相(当時)と会談した。アジア諸国歴訪の一環でもなく、国際会議参加のためでもなく、ただ、日本の安倍晋三首相と会談するためにわざわざ日本まで出向いたのである。
そして、日本と英国は東京で日英安全保障共同宣言を発表した。宣言では、日本の安倍首相が提唱する「積極的平和主義」と、英国のグローバル・ブリテン構想を整合させ、日英がグローバルな戦略的パートナーシップを構築し、それをさらに次の段階に引き上げることなど、17の項目で合意した。
パートナーの関係を次の段階に引き上げることの意味について、日本の河野太郎外相(当時)は記者団に対して次のように説明した。
「首脳会談は大変よく、うまくいったと思っております。また合意文書も出すことができました。今までのパートナー国から同盟国へという形で関係を強化していこうということになりました」
一方、英国のメイ首相はNHKのインタビューに応えて次のように述べた。
「イギリスと日本は両方とも海洋国家です。私たちは両方とも外向き志向の国です。私たちは民主主義や法の支配を尊重し、人権を尊重します。その点では、私たちはとても似た見解を持っています。私たちは自然なパートナーであり、自然な同盟国だと思います」
日英のリーダーが互いを「同盟国」と呼び合うのは1923年に日英同盟が解消して以来、およそ100年ぶりのことであった。それ以来、日本との新たな同盟の構築は英国の戦略の一部となり、英国政府は外交文書や公式ツィッターなどでは、一貫して日本をパートナーではなく、「allies(同盟国)」と呼ぶようになった。
現代の同盟は、かつての軍事同盟とは大きく異なる
ただ、ここで確認しなくてはならないのは、「『同盟』とはいったいなにか」ということである。
実は、同盟の固定した明確な定義は存在していない。専門家の間でも自国の領域を守るため侵略に共同で武力行使する関係とする古い解釈と、安全保障のあらゆる分野で平和時から協力し合う関係とする新しい解釈が併存している。
ただ、確実に言えることは、現代は平和でもなければ戦争でもないグレーな時代であり、同盟はこのグレーな時代に有効に機能するものでなくてはならないということである。
実際に武力衝突が起きていなくても、サイバー空間を利用したサイバー戦や、軍事と民間が共同して外国への浸透工作を行うハイブリッド戦、大国同士の覇権をかけた情報戦が日々、見えないこところで熾烈に繰り広げられている。侵略への共同対処を同盟の条件にするのは現実的ではない。