最新記事

生命

生命は落雷から誕生した? 放電がDNAの必須要素を生成:米英研究

2021年3月29日(月)17時00分
青葉やまと

落雷の高音、希少な鉱石を生成

シュライバーサイトとは、鉄とニッケルがリン化してできる、珍しいタイプの鉱石だ。水と反応することで、環境中にさまざまなリン化合物を放出する。リンはDNAやRNAを構成する必須要素であるだけでなく、細胞膜の形成や、あらゆる生物がエネルギー源としているアデノシン三リン酸の生成などにも欠かせない。生命にとってなくてはならない存在だ。

生命がどのようにリンを獲得したのかについて、これまで落雷に注目した学説は存在しなかった。もちろん40億年前といえど、地球上にリンが存在しなかったわけではない。しかし、その大部分は硬い鉱石の内部に閉じ込められており、とても生命の一部として利用できる状態ではなかったはずだ。

だが、落雷がフルグライトを形成し、そこにシュライバーサイトが含まれるというのなら、この問題は一気に解決する。ヘス氏たちの研究チームは、自然科学を扱う学術誌『ネイチャー コミュニケーションズ』に寄せた論文のなかで、そのしくみを次のように説明している。

落雷を受けた地表のポイントは高熱を帯び、摂氏約2700度にも達する。この熱がリンと鉄など鉱物中の元素の反応を促し、水溶性のシュライバーサイトを生成する。降雨や海面変動などで当該部分が水面下に沈むと、そこから水溶性のリン化合物が溶出し、生命に必須のリンを生み出すというわけだ。

問題は、地球上の生物が命をつなぐのに十分な量のリンがこの過程だけで得られるかどうかだ。その点においては、40億年前当時の気象条件がヘス氏たちの説に味方した。

初期の地球では、現在よりも大量の二酸化炭素が大気中に存在し、これにより温暖化現象が起きていたと考えられている。一般に、大気の温度が上昇すればするほど雷はより頻繁に発生し、その規模も大きくなる。生命の誕生前後には、年間10億から50億回と、最大で現在の9倍程度の数の雷が発生していた。研究チームの試算により、このうち最大で10億回ほどが地表への落雷に至っていたと判明している。

一方、シカゴ郊外に出現したフルグライトは、全体の0.4%ほどがシュライバーサイトで構成されていた。これらの数字をもとに推定を進めたところ、少なくとも毎年110キロ、最大で11トンほどのリンが生成されていたとの結論が得られた。地球上の生物の成長と繁殖を維持するのに十分な量だ。

ヘス氏の専門は地質学だ。しかし、シュライバーサイトが生命誕生に重大な貢献をしたと知るやいなや、「私たちの研究の主眼は完全にシフトしました」と氏はスミソニアン誌に打ち明けている。こうして、少し珍しい落雷による鉱物を研究するだけのはずだった氏のプロジェクトは、期せずして生命誕生の謎の手がかりを掴むこととなった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=続伸、ダウ419ドル高 米中貿易戦争

ビジネス

米経済活動は横ばい、関税巡り不確実性広がる=地区連

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米中緊張緩和への期待で安心

ビジネス

トランプ氏、自動車メーカーを一部関税から免除の計画
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    ウクライナ停戦交渉で欧州諸国が「譲れぬ一線」をア…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 7
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中