最新記事

韓国

4月1日、改正種苗法が施行 韓国の無断栽培増加が背景にあった

2021年3月26日(金)15時38分
佐々木和義
ブドウ農家

韓国が輸出したブドウの70%は、日本のシャインマスカットだった (写真はイメージ)kumikomini-iStock

<4月1日に施行される改正種苗法。その背景には、中国や韓国の無断栽培があった。韓国側の状況を見てみる...... >

2021年4月1日、改正種苗法が施行される。新品種の開発者が、栽培地を国内や特定の都道府県に限定できるようなり、また、農家が収穫物から種子を採取して翌シーズンの生産に使う「自家増殖」は許諾制になる。

改正前は正規に購入した種苗の海外への持ち出しは違法ではなかったが、4月以降は「国内限定」などの制限に違反すると、個人は10年以下の懲役または1000万円以下の罰金、法人は3億円以下の罰金が課され、流通の差し止めや損害賠償を求償される。

国産農産物の輸出拡大を進めるなか、優良品種の海外流出対策を柱とする改正で、中国や韓国の無断栽培の増加が改正の背景にある。ここでは、韓国側の状況を見てみよう。

2000年代半ば韓国のイチゴ市場は日本品種が90%以上に

2018年、平昌冬季五輪で銅メダルを獲得したカーリング女子日本代表が、試合後の記者会見で「韓国のイチゴがおいしかった」と絶賛し、当時の斎藤健農林水産相が微妙な反応を示した。韓国のイチゴは日本から流出した品種をもとに開発されていたからだ。

韓国イチゴ市場は2017年時点で93.4%が韓国産品種で、2002年に5726億ウォンだった生産額は、13年には1兆ウォンを突破した。雪香が83.6%で最も多く、竹香5%、梅香3.3%と続き、外国品種は日本の章姫が4.8%、レッドパール1%などとなっている。

2000年代半ばまで韓国のイチゴ市場は日本品種が90%以上を占めていた。2002年、韓国が植物新品種保護国際同盟(UPOV)に加盟すると、日本政府が開発育種家に対するロイヤリティの支払いを要求。韓国農家は日本品種を「梅香」や「雪香」に植え替えた。

韓国中西部の忠南農業技術院論山イチゴ試験場で、1994年から国産品種の開発が進められ、2002年に梅香、2005年には雪香と錦香など、2017年までに9種類の品種を開発したが、「雪香」はレッドパールと章姫を交配し、「梅香(メヒャン)」は章姫と栃の峰を交配した品種で、多くが「章姫」「レッドパール」「とちおとめ」など日本から流出したイチゴを交配して開発された。

「梅香」は香港やシンガポールなどに輸出されている。18年2月、農林水産省は韓国で育成者権を取得できていたら年16億円のロイヤリティを得られた可能性があり、また、13年から17年の5年間の輸出喪失額を220億円と推計した。

無断栽培が増えたシャインマスカットとフジ

さらに、高級ブドウのシャインマスカットは、韓国と中国で無断栽培が行われている。

農研機構が30年かけて開発し、2006年に品種登録を行った。ブドウの海外登録は国際条約で、自国内登録から6年以内と定められているが、輸出を想定していなかったことから国外登録は見送られ、中国と韓国で無断栽培がはじまった。

韓国農水産食品流通公社(aTセンター)が2017年から中国や東南アジアへの輸出を推進した。中国産は値段が安いが味が劣る。韓国産は日本産より劣るが中国産より味が良く、また日本産より安価なことから人気がある。2019年に韓国が輸出したブドウ2300万ドルの72.4%をシャインマスカットが占めていた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

英小売売上高、3月は前月比横ばい インフレ鈍化でも

ビジネス

日産、24年3月期業績予想を下方修正 中国低迷など

ビジネス

TSMC株が6.7%急落、半導体市場の見通し引き下

ワールド

イスラエルがイラン攻撃と関係筋、イスファハン上空に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中