最新記事

日本社会

東京五輪は、日本が多様性を容認する社会へと変わるチャンス

2021年2月26日(金)17時00分
にしゃんた(羽衣国際大学教授、タレント)

リオ大会では、戦火が続いたコソボから大会初となる8人の選手団が参加し、その中の1人が柔道で金メダルに輝いた。特筆すべきは10人で結成された「難民チーム」の参加だ。選手団は、シリアやコンゴ民主共和国、エチオピア、南スーダンなどの、内戦や政情不安によって自国を追われた人たちで、そのうち8人はケニア、ベルギー、ドイツ、ルクセンブルクに難民として受け入れられ、2人はブラジルから難民として受け入れられ暮らしている。

「難民チーム」が、開会式で開催国のブラジルチームの1つ前に入場した際には、会場の人々はスタンディングオベーションで迎え入れた。独自の国旗がない「難民」をオリンピックの五輪の旗で包み込み、戦争や人権侵害の対立軸にオリンピックがあることを強く印象付けた。

大会中に印象に残る場面は他にもあった。女子ビーチバレーのエジプトとドイツの対決もその一つだ。身体の過剰な露出を良しとしないイスラム教徒の選手が身体を隠すヒジャブで登場し、最小限にしか体を覆っていないビキニ姿のヨーロッパ選手と堂々と戦った。

最終日に行われた男子マラソンでは、エチオピア代表のフェイサ・リレサが銀メダルに輝いた。彼が高く掲げた両手でバツ印をつくりながらマラソンの最後の直線を走った姿は、世界中で話題になった。フェイサは、「エチオピア政府が行っている虐殺や暴力」に対する無言の抵抗を平和の祭典オリンピックの場で訴えた。オリンピックは、多様性や人権について考え、表現するにあたっての最適な場であることを選手自らも実行した、記憶に残る大事な場面となった。

日本社会が変わるチャンス

開催に際し、治安問題や工事の遅延などの不安の声が大きい中で迎えられたリオデジャネイロ・オリンピックだったが、少なくとも「平和の祭典」として、つまり「多様性の受容力」において過去のすべての記録を見事に塗り替え、その役割を立派に成し遂げた。

さて、次は東京だ。まずは開催が実現するかどうかだが、開催に至った場合、大半の国民が抱いている新型コロナに対する不安と現実に対処することが求められる。それに終始するといっても過言ではない。しかし、だからといって多様性についての歩みを止めることがあってはならない。これを契機に、コロナ禍における社会全体で、人間の尊厳に重きを置く平和な社会の推進を世界に発信することができる。

例えば世界80以上の国で存在している「LGBT平等法」の制定、実質上の移民受け入れを本格化させた日本において、他の同様な国では存在している「多文化共生社会基本法」の成立、さらには、日本が先進国の中で唯一保持している夫婦同性を義務化する法律の改定など、オリンピックがきっかけで変わるチャンスという発想を持てないものだろうか。
 
日本の重要なポストにマイノリティーが起用され、それらの意見が取り入れられる重要性があらためて日本社会で共有された。マジョリティー、マイノリティーが手を携えて実行に移すのは今だ。勇断を望む。

【筆者:にしゃんた】
セイロン(現スリランカ)生まれ。高校生の時に初めて日本を訪れ、その後に再来日して立命館大学を卒業。日本国籍を取得。現在は大学で教壇に立ち、テレビ・ラジオへの出演、執筆などのほか各地でダイバーシティ スピーカー(多様性の語り部)としても活躍している。

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、ガリウムやゲルマニウムの対米輸出禁止措置を停

ワールド

米主要空港で数千便が遅延、欠航増加 政府閉鎖の影響

ビジネス

中国10月PPI下落縮小、CPI上昇に転換 デフレ

ワールド

南アG20サミット、「米政府関係者出席せず」 トラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 9
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中