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「国民皆保険」導入を拒んだのは「アメリカニズム」だった

2021年2月9日(火)20時10分
山岸敬和(南山大学国際教養学部教授)※アステイオン93より

独立に至るこのような過程やレトリックは、個人の自由の尊重、反エリート、反国家権力の政治文化を植え付けた。そして、アメリカは例外的な国である、例外的であるべきという考え方も生み出した。

合衆国憲法によって作られた政治システムもこのような政治文化を反映した。連邦政府に委任された権限以外は全て州政府に留保されるとし、連邦政府の権力拡大が防止された。さらに連邦政府内でも、立法府、行政府、司法府の間で権力の抑制と均衡がなされ、権力集中を防止するための制度設計が行なわれた。

19世紀の間は、このようなアメリカの特殊性が存続するのを許す環境が続いた。大西洋という自然の緩衝地帯があったこともあり、アメリカはヨーロッパ内の政治的対立に巻き込まれることを回避できた。モンロー宣言は、アメリカがヨーロッパからの介入を拒絶し、アメリカ南北大陸での優位性を確保すると同時に、アメリカの独自性を涵養する素地を作った。

1829年にアンドリュー・ジャクソンが大統領になったことは、アメリカ独自の国家形成を象徴した。大統領によって高級官僚が入れ替わる猟官制を制度化し、ヨーロッパ的な官僚支配からの明確な違いを示した。1830年代に視察のためにフランスから渡米してきたアレクシ・ド・トクヴィルは、ヨーロッパと比較してアメリカにおいて市民の平等が高度に達成されていること、市民団体が活発なこと、政府の役割が限定されていることを目の当たりにした。それまで衆愚政治体制と警戒されていた「デモクラシー」が、アメリカの土地でジャクソンによってポジティブなものとして再生された。

19世紀において、ヨーロッパでは強固な官僚制が強大な国家権力を支えていた。他方、アメリカでは、「夜警国家」と呼ばれるように連邦政府の権力は国防や治安維持などに限定されていた。アメリカはイギリスからの独立を勝ち取る中で、例外的な政治文化と政治システムを作り上げた。しかし、20世紀に入り医療分野における連邦政府の役割の拡大が叫ばれた時に、これらが障壁となった。

革新主義時代の挫折――ドイツ型医療保険の否定

19世紀半ばまでにアメリカでも産業革命が起き、都市化と共に労働問題が深刻化した。賃金は低く、衛生環境が悪い中で長時間労働を強いられた。労働環境の改善を求め、各地でストライキなどが起こり、政府や雇用主はその対応を迫られた。

セオドア・ローズヴェルト、ウィリアム・タフト、ウッドロウ・ウィルソンの三大統領(1901~1921)は、革新主義大統領と言われる。政治から汚職を取り除く、企業の独占化を防ぐ、労働者の地位を向上させる、社会秩序を取り戻す、そのために伝統的社会的エリートとして責務を果たすべきだという「ノブレス・オブリージュ」の精神による改革であった。

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