最新記事

メディア

アメリカには公平中立な報道機関「BBC」が必要だ

THE UNITED STATES NEEDS A BBC

2021年2月19日(金)18時00分
エリザベス・ブラウ

BBCはバランスの取れた正確な報道でイギリス国外でも定評がある(ロンドンの本社) Henry Nicholls-REUTERS

<党派色の強い粗製乱造の報道がはびこるなか市民は質の高い正確なニュースを求めている>

イギリスの公共放送局BBCが昨年7月、驚くような数字を発表した。その前月までの1年間に世界の4億3800万人がBBCニュースを、3億5100万人が国際放送のBBCワールドサービスを、さらに1億3700万人が同じく国際放送のBBCグローバルニュースを視聴・聴取・閲覧したというのだ。

これら3部門、それにBBCのエンターテインメント部門はいずれも2桁台の成長を遂げている。一部のアメリカのメディアと違って、BBCは対立をあおって視聴率やページビューを稼ぐ手法に頼っていない。それでも、これだけの実績を上げている事実をどう受け止めればいいのか。

アメリカではここ数年、偏向報道の嵐が吹き荒れ、手の施しようがないほど社会の分断が深まった。今この国に必要なのはBBCのような公共メディアかもしれない。

公共放送として特許状を付与されたBBCは、公平性を重視した報道を行うよう法的に義務付けられている。先に挙げた実績を発表した際、当時のトニー・ホールBBC会長はこう語った。「われわれは間違いなく最強にして最も有名な英国ブランドの1つであり、世界が認める高品質と正確性の同義語だ」

そう、人々が求めているのは高品質で正確な報道なのだ。一方で「アメリカ人は違う」という声も聞こえてくる。アメリカの視聴者が求めているのは感情に訴えるようなストーリーや自分の考えの正しさを肯定してくれる情報だ、というのだ。

本当にそうだろうか。データが語る答えはノーだ。

オックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所の昨年の報告書によると、アメリカ人の60%は中立なニュースを求めている。また56%はBBCの報道を信頼できると答えていて、BBCはアメリカ人が信頼する外国メディアのトップとなっている。

BBCニュースを視聴・閲覧しているアメリカ人は5000万人弱。この数はイギリス本国を除けば、インドに次いで多い。

保守もリベラルも同罪

分断をあおるような報道が目につくアメリカだが、オックスフォード大学の調査を見る限り、事実に基づいた報道が求められている点では他の多くの国々と変わらない。

自分の考えと合う報道、合わない報道、または中立な報道のどれを求めるかという問いに対して、ドイツ人の80%、日本人の78%、イギリス人の76%、デンマーク人の68%、イタリア人の65%、フランス人の58%、スペイン人の55%が中立な報道を求めると答えている。

先に述べたようにアメリカ人も60%が中立な報道を求めているのだが、現状ではそのニーズは満たされていない。穏健派の共和党議員ベン・サシは雑誌に寄稿した論評で「ジャンクフード並みの報道がはびこる」状況を批判した。

「これは右派や無名の人のブログに限った問題ではない。明確なイデオロギーを持つ層をターゲットにしたFOXニュースなどの経営戦略は、MSNBCやCNN、ニューヨーク・タイムズにも共通する。選挙の不正疑惑だろうと、地域警察の廃止要求だろうと、時流に乗った『正義のメッセージ』を打ち出して視聴率やページビューを稼ごうと、メディアは躍起になっている」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ウォルマートCEOにファーナー氏、マクミロン氏は

ワールド

米政権特使、ハマス副代表と近日中に会談へ=米紙

ビジネス

米、対スイス関税15%に引き下げ 2000億ドルの

ワールド

ロシア黒海主要港にウクライナ攻撃、石油輸出停止 世
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中