最新記事

中国

ほぼ「無理心中」計画:香港民主派前議員大量逮捕の背景

2021年1月7日(木)18時10分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

2016年の立法会議員選挙の結果、定数70名の内、「30:民主派、40:親中派」となったので、 過半数の「35+」を目指す戦術を民主派側は考えていた。しかし、民主派の勢いに怖気づいた林鄭月娥(キャリー・ラム)長官が、コロナを理由にそもそも立法会選挙自身を1年間延期すると宣言したので、民主派はその立法会選挙に向けて、着々と「死なばもろとも十歩」計画を進めていたわけだ。

「死なばもろとも十歩」計画とは

「死なばもろとも十歩」計画とは、言うならば「うまく行かなかったら、最後はお前と心中してやる」というもので、広東語で「攬炒十歩」というのだが、この「攬炒」は「自分にもしものことがあったら、相手をも巻き添えにして共に滅びる」という意味で「玉石俱(とも)に焚(た)く」すなわち「死なばもろとも」ということを表す。

第一歩から第十歩までがあり、最後の第十歩には「(うまく行かなかったときには)中共とともに崖から飛び降りてやる(飛び降り無理心中をする)。そのとき国際社会が助けてくれるかどうか、どう行動してくれるかも分からないので、書きようがない」といった主旨のことが書いてあり、まるで「特攻隊精神」だ。

一歩から十歩まで全てを列挙するのは、相当に文字数を取るので躊躇してしまうが、一応簡潔に書くなら以下のようになる。( )内は決行日。計画作成者は戴耀廷氏で(2020年4月28日『リンゴ日報』掲載)、彼は予備選挙の主催者の一人だ。もちろん今般の逮捕者の中の一人でもある。

●第一歩(2020年7-8月):香港政府が民主派の立法会選挙立候補資格を取り消しても、民主派はプランB(つまり複数の立候補者を立てて、Aの立候補資格が取り消されたら、Bが立候補するという)で選挙に参加する。

●第二歩(2020年9月):香港マカオ弁公室と中央政府駐香港連絡弁公室の介入およびDQ(資格取り消し)が行われたら、より多くの香港人が民主派に投票するように刺激して呼びかけ、最終的35席以上の取得に漕ぎ着ける。

●第三步(2020年10月):香港行政長官および 律政司が法的措置を用いて民主派議員の資格を取り消した場合、法廷措置には時間がかかるので、民主派議員は引き続き立法会を主導する。

●第四歩(2020年10月至-2021年4月):香港政府が立法会に提出したすべての予算案が否決され、香港政府は最低限の運営しかできなくなる(政府が機能しなくなる)。

●第五歩(2021年5月):立法会が政府の財政予算案を否決し、香港行政長官が立法会を解散し、臨時予算を使って政府の運営を維持する。

●第六歩(2021年10月):法会再選挙実施。民主派のプランBも資格を取り消されるだろうから、その場合、プランC(3人目の候補者)を立候補させる。それでもなお35席以上を民主派が取得する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマーで総選挙投票開始、国軍系政党の勝利濃厚 

ワールド

米北東部に寒波、国内線9000便超欠航・遅延 クリ

ワールド

米、中国の米企業制裁「強く反対」、台湾への圧力停止

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア外相と会談へ 停戦合意を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中