最新記事

壁画

世界最古、4万5500年前に描かれた動物の洞窟壁画がインドネシアで発見される

2021年1月15日(金)16時40分
松岡由希子

4万5500年前とみられるイノシシの壁画 CREDIT:MAXIME AUBERT

<インドネシア中部スラウェシ島の洞窟で、世界最古のものとみられる4万5500年前のイノシシの壁画が見つかった......>

インドネシア中部スラウェシ島の洞窟で、4万5500年前のイノシシの壁画が見つかった。動物を描いた壁画としては世界最古のものとみられている。

豪グリフィス大学とインドネシア国立考古学研究センター(ARKENAS)の共同研究チームは、2017年、スラウェシ島南部マカッサルに近接する鍾乳洞「リアン・テドング洞窟」の現地調査において、スラウェシ島の固有種「セレベスヒゲイノシシ」の壁画を発見。

4万年以上前からこの地に人類が定住していたことを示す......

壁画に付着した炭酸カルシウム堆積物を採取し、ウラン系列同位体分析を用いて年代測定した結果、少なくとも4万5500年を経過したものであることがわかった。一連の研究成果は、2021年1月13日に学術雑誌「サイエンス・アドバンシス」で発表されている。


代赭石(たいしゃせき)の顔料で描かれた幅136センチ、高さ54センチのイノシシは、短毛を逆立てたたてがみがあり、顔にはセレベスヒゲイノシシの雄の成体に特有の角のような一対のイボがみられる。その臀部の近くには2つのヒトの手形が確認できるほか、別のイノシシ2頭が戦っているような姿の一部も残されていた。

研究論文の筆頭著者でグリフィス大学の考古学者アダム・ブラム教授は「2頭のイノシシの闘いもしくは交流の様子をこのイノシシが観察しているようにみえる」と考察している

リアン・テドング洞窟は、人里離れた谷間にあり、石灰岩の断崖に囲まれ、乾期にしかアクセスできない。この壁画は、4万年以上前からこの地に人類が定住していたことを示すものとしても注目されている。

また、セレベスヒゲイノシシは島内の氷河期の壁画でもっともよく描かれる動物であることから、長年、食料としてのみならず、創造的な思考や芸術的な表現においても大切にされていたことがうかがえる。

matuoka0115b.jpeg

南スラウェシの石灰岩の洞窟の壁には複数の画像が描かれている AA OKTAVIANA

ハッシュタグのような壁画は南アフリカに

ブラム教授らの研究チームは、2019年12月にも「スラウェシ島南部の鍾乳洞で4万3900年前の壁画を発見した」との研究成果を発表。今回の研究では、これよりさらに古い4万5500年前の壁画のほか、別の洞窟で3万2000年前のセレベスヒゲイノシシの壁画も発見している。

なお、世界最古の壁画としては、2018年9月、南アフリカ・ウィットウォーターズランド大学らの研究チームが、ケープタウンの東にあるブロンボス洞窟で、7万3000年前に描かれたハッシュタグのような壁画を発見している

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金与正氏、ロシアとの武器取引否定 「ばかげ

ビジネス

テスラのドイツ工場拡張、地元議会が承認 環境団体は

ビジネス

シェブロン、英北海事業から完全撤退へ 残る資産の売

ワールド

米大統領、トランプ氏の予測違いを揶揄 ダウ4万ドル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中