最新記事

香港

香港をロシア式「鳥籠民主主義」の実験場にする中国共産党

Hong Kong’s Democracy to Become Like Russia’s?

2020年12月10日(木)19時40分
サイモン・シェン(香港中文大学客員准教授)

12月2日に実刑判決を言い渡された香港の3人の若い民主活動家──左から周庭、林朗彦、黄之鋒 TYRONE SIU-REUTERS

<中国の指導層はプーチン政権の選挙制度に倣い、民主主義を装った巧妙な支配体制を築くことで、香港の政治的な「生態系」を変えようとしている>

国家安全維持法の成立により、私たちの知る「香港」は消え去った。だが中国政府は、香港を普通の中国の都市にするつもりはない。そんなことをしても、利益はほとんどない。

むしろ中国の指導層は、ウラジーミル・プーチン大統領のロシアをモデルとして、香港の政治的な「生態系」を変えるという壮大な実験を行っているとも受け取れる。

ジャーナリストのウィリアム・ドブソンが著書『独裁者の学習曲線』で指摘するように、現代における最も効果的な統治形態は力による弾圧ではなく、自由を限定した鳥籠のような制度だと独裁者たちは認識している。この制度は正当性を保つために民主主義であるかのように装うが、実際には体制維持を最も重要な目標にしている。

ロシアの「選挙による独裁政治」の主な特徴は、この「鳥籠民主主義」だ。この点を念頭に置いて香港の最近の情勢を考えると、香港では公正な選挙が終わりを迎えようとしていることが見えてくる。

ソ連が崩壊してロシア連邦が成立した当初、各政党は議会選挙で本当の競争に直面した。野党のロシア連邦共産党は1990年代半ばに議会で第1党となり、ボリス・エリツィン大統領の政府を牽制する大きな力になった。

しかしプーチンが政権を握ると、彼は政党の数を制限し、さまざまな法解釈を駆使して議会への立候補を妨げ、最終的には立候補者を政府が認める人物だけに制限した。

与党に盾突かない野党

現在のロシアでは、いくつかの政党が、与党・統一ロシアと並んで選挙で立候補することを「許可」されている。統一ロシア以外の政党には、明確な役割があるのだ。

極右政治家のウラジーミル・ジリノフスキーが率いる自由民主党は「アラスカを取り戻す」といった法外な政策を提唱する。そうするとプーチン政権が穏健に見えてくる。

ソ連時代の共産党の流れをくむロシア連邦共産党には、優れた組織力と動員力がある。そこでプーチンは同党を万年野党の座に押しとどめるため、常に標的に据えている。

左派野党の「公正ロシア」は共産党と票を奪い合っており、そのため左派は単独で過半数の議席を取ることが難しい。公正ロシアは政府の意のままになる「懐中(ポケット)野党」と位置付けられる。統一ロシアの地方幹部を厳しく批判し、選挙で民主主義と自由を唱えるが、統一ロシアの支配に盾突くことはない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=急落、ダウ251ドル安 米銀大手トッ

ビジネス

NY外為市場=ドル、対ユーロで4カ月ぶり高値 米の

ワールド

米大統領、食料支援「政府再開までない」 人権団体は

ワールド

米IBM、第4四半期に人員削減 数千人規模の可能性
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 10
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中