最新記事

シリア

シリアの希望はそれでも死なず──民主化を夢見たアラブの春から10年

The Arab Spring Let the People Shout, Not Whisper

2020年12月25日(金)16時15分
オマル・アルショグレ(人権活動家・シリア難民)

アサド政権は同盟国であるロシアとイランの助けを借りて、反政府勢力が解放したシリアの大部分を奪還した。現在は反政府勢力の最後のとりでである北西部のイドリブに400万人近い避難民が集まり(その半分以上が子供)、生き延びるだけで必死だ。

反政府勢力は、トルコやカタールなど外国の支援に頼らざるを得なかった。これらの国はシリアについてそれぞれ思惑があり、反政府勢力が真の敵に狙いを定めるのではなく、グループが互いに対立するように仕向けてきた。

2014年にシリア北部を中心に国家樹立を宣言した過激派組織「イスラム国」(IS)は、シリア革命にとって最大の危機となった。彼らは対抗勢力の殺害に躊躇なくリソースをつぎ込み、欧米の関心はアサド政権の残虐性からテロ集団の残虐性に向かった。

気が付けば、シリアの反政府勢力に対する信頼は失われていた。人々に残されたのは、11年前半に最初のデモに参加したときに抱いた希望だけだった。

私たちは恐怖の檻を壊す

アラブの春の最中に成長した何百万人という若者は、自分たちの政府がいかに腐敗していて、自分たちを守る治安部隊がいかに危険であるかを身をもって学んだ。そして意見を異にする人々と関わり、共通点を見いだす機会を得た。

未来はどうあるべきかという新しい考えを、彼らは形にしてきた。自由を手にするまで戦い続けるだろう。現政権の支配下で命を落とした人々、逃れた人々、拷問を受けた人々のために。

また、何百万人という難民が、安全を求めてヨーロッパに逃れた。彼らの多くが現在は大学で学び、自由と民主主義を擁護して、平等と尊厳と人権を訴えている。そしてヨーロッパでの生活を基盤に、中東の未来に貢献するという新たな形の成功を収めている。

私が最初にデモに参加したのは、父に自分の存在を証明したかったからだ。私に対する父の見方を変えることが、私の最初の革命だった。

あれから10年、私はもっと大きなところにたどり着いた。当局に拘束されている推定21万5000人のシリア人と同じように、政権の最も暗黒な姿を見てきた。

私はヨーロッパに行き、初めて民主主義を体験した。自由を体験した。そこでは声を潜めて話す必要はなかった。シリアの革命がエジプトのように1カ月足らずで終わっていたら、私たちは自由や民主主義、人権について、これほど多くを学ぶことはなかっただろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、ハイテク株に売り エヌビディア

ビジネス

NY外為市場=円が対ドルで上昇、介入警戒続く 日銀

ワールド

トランプ氏「怒り」、ウ軍がプーチン氏公邸攻撃試みと

ワールド

トランプ氏、ガザ停戦「第2段階」移行望む イスラエ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 7
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中