最新記事

シリア

シリアの希望はそれでも死なず──民主化を夢見たアラブの春から10年

The Arab Spring Let the People Shout, Not Whisper

2020年12月25日(金)16時15分
オマル・アルショグレ(人権活動家・シリア難民)

彼の家族や同じ町の住民たちの悲しみと怒りがシリア全土に広がり、ついにシリアでも革命が勃発した。

父は私を車に乗せて集会やデモに参加するようになった。そのときも父はまだひそひそ声だったが、思いは伝わってきた。今こそ勇気を持って一歩を踏み出そう。もう後には引けない。デモに参加する以上、死を覚悟の上だ。

アサドのすさまじい反撃

正直とても怖かったが、心の奥底には喜びがあふれていた。デモ参加者はみんなそうだったと思う。私は抑え切れない興奮に震えていた。

「ああ、僕は自由だ!」

その後刑務所に入れられ、拷問されることになるとは想像だにしなかった。シリア全土に広がったデモの様子を家族と一緒にテレビで見たまさにそのリビングで、父と兄弟が殺されることも......。

アサド政権の暴虐とそれに続く内戦で亡くなった50万人を超える同胞たち。そこには、私の家族も含まれている。私の住む地域でも虐殺が起きた。私の生まれた村ではアサドと同じイスラム教シーア派の一派であるアラウィ派が住民の多数を占めていたが、アサドの意向を受けて、少数派であるイスラム教スンニ派の住民が片っ端から殺された。

どんな戦いにも勝者と敗者、そして犠牲者がいる。「アラブの春」が成功したと見るかどうかはさておき、この戦いをきっかけに強権支配が強い指導者の証しではないと、中東の人々が気付いたのは確かだ。長年恐怖支配に耐えてきた人々が正々堂々と声を上げることの素晴らしさを知った。

同時に欧米の人々は、中東にも民主化と変革の可能性があることを知った。そして中東の為政者たちは、暴力的な抑圧が死に物狂いの時間稼ぎにすぎず、真の解決にはならないことを思い知らされた。

チュニジア、リビア、エジプト、イエメンでは、大統領らを退陣に追い込むことはできたが、体制崩壊は果たせなかった。10年の歳月を経た今、人々は以前と同じ苦しみに直面している。

アラブの春の原点であるチュニジアでは、2014年に民主的な大統領選挙が行われて希望の光が差したが、組織的な腐敗の多くが続いていることはすぐに明らかになった。エジプトでは革命が始まって以来、2人の大統領を放逐したものの、新たな独裁者、アブデル・ファタハ・アル・シシ大統領が生まれた。

シリアでは2011年3月以降、人口の11.5%が死傷し、半分を超える1200万人以上が国内外に避難している。シリア人権ネットワークによると、この間に10万人近くが所在不明となった。その大半は政権の手によるとみられる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中