キリスト教福音派で始まった造反がトランプの命取りに
Trump’s Headache from the Right
それでも前出のJD・ホールに言わせると、ウォリスが「お目覚め派なのは10年前から分かって」いた。むしろ今の問題は「以前なら彼に同調するはずのなかった聖職者まで彼に追随していることだ」という。
ホールは、2年前にマイク・ペンス副大統領が南部バプテスト連盟で講演したときのことを振り返り、「お目覚め派の連中はペンスに背を向け、政治家の講演を禁止する決議を通そうとした」と語る。「宗教に政治を持ち込むなという話だったが、今は彼らがBLMや左翼的な思想を押し付けている」
今や「右翼」の代名詞に
福音派内部の左旋回に対抗すべく、ホールらも活発に動きだした。「マルクス主義に立ち向かえ」とか「大いなる目覚めを」といったスローガンを掲げた数百人規模の集会を何度も開いている。
それでもホールは、自分たちへの逆風を強く感じざるを得ない。現に南部バプテスト連盟を脱退する教会が続出しているからだ。「この戦いはひどく一方的で、こちらはお目覚め派の連中からやられるばかり。もしもトランプが(今度の選挙で)福音派の票を2%でも失えば、おしまいだ」とホールは嘆く。
南部バプテスト連盟のJ・D・グリーア会長は本誌の取材に応じなかったが、今年6月、BLMの考えは支持すると表明する一方で、「BLM運動は一部の政治屋に乗っ取られている。彼らの世界観も政策提言も私の考え方とは相いれない」と述べている。
BLM運動に反発する保守的な黒人牧師のグループもある。例えば「保守的な有色聖職者」を名乗る人たち。彼らが掲げるのは「オール・ライブズ・マター=誰の命も大事」」のスローガンだ。彼らが用意したパンフレットには、BLMをリベラルなメディアやマルクス主義に結び付ける主張が並んでいる。
「左翼の思想家が公民権運動を乗っ取り、黒人や有色人種の痛みを邪悪な政治の道具にしている」と言うのは、「保守的な有色聖職者」の一員であるフランシスコ・ベガだ。彼に言わせると、かつてアメリカ社会で主流だった福音派が、今では「右翼」や「差別などの問題意識が低い人」の代名詞と化している。
そのため、1970年創立の団体「社会活動のための福音主義者」も今年9月に「福音」の名を削り、「社会活動のためのキリスト教徒」に改名した。創立者のロン・サイダーは改名の理由について、「今や福音派はキリストの教えや聖書の福音を守る活動をする人ではなく、親トランプの政治活動家というイメージが広まっている」からだと説明している。
ただし、改名して「お目覚め派」に寝返ったのではないと、同団体の幹部ニッキ・トヤマ・セトは本誌に語った。「私たちは信仰に基づき、社会で最も弱い立場にある人々を常に気に掛けてきた。その活動がたまたま社会問題に重なることもあるが、それ以外の活動もたくさんある」
彼女によれば、同団体は当初から人種や男女同権など、進歩派と目されやすい問題に取り組んできた。「当時は社会正義の問題に携わることも異端とされていたが、私たちは信仰に基づく当然の活動と考えてきた」と彼女は言う。