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キリスト教福音派で始まった造反がトランプの命取りに

Trump’s Headache from the Right

2020年10月27日(火)18時40分
ポール・ボンド

しかし福音派の主流から見れば、こうした主張は女性の権利や同性婚、さらには昨今のBLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事)運動などに肩入れするものと映る。もちろん、かつて奴隷制の廃止を唱えた人々の多くは敬虔なキリスト教徒の白人だった。だから福音派の主流も、BLMの掲げる理想には反対しない。しかしBLM運動の背後にいる活動家はマルクス主義者で、アメリカ社会を人種差別的と決め付けていると非難する。

「お目覚め」派に党派色鮮明な人がいるのは事実だ。例えば「トランプ主義と政治的に極端な思想に反対するキリスト教徒」を名乗る人たち。彼らは「キリスト教社会におけるダークで分断的な声」に反対し、「首都ワシントンに巣くう悪魔に甘い」一部の聖職者を厳しく糾弾する署名を集めている(賛同者には元共和党議員の名も見える)。

当然のことながら、福音派の本流はこうした動きに警戒を強めている。例えばラジオ番組『恵みをあなたに』で有名なフィル・ジョンソン牧師は、1960年代の公民権運動を通じて「社会正義に目覚めた一派」が教会に入り込んだと主張し、今では「彼らの言う社会正義に反論するだけで、差別的だとかヘイト発言だとかのレッテルを貼られてしまう」と嘆く。

毎月100万人の信者が訪れるウェブサイトを運営する説教師JD・ホールも、「この国で最大の会派」である福音派を真っ二つに切り裂こうとする「お目覚め派のエリート」に警鐘を鳴らす。

福音派の最大組織で教会数5万、信者数1500万を誇る「南部バプテスト連盟」でも、一部の指導者はBLMに連帯し、奴隷制の過去を想起させる「南部」の語を団体名から外そうとしている。福音派系の大学にも、白人警官の暴行で死亡したジョージ・フロイドの名を冠した奨学金を設ける動きがある。

アリゾナ・クリスチャン大学の文化研究センターが9月22日に発表した調査結果によると、18~36歳のアメリカ人で聖書の世界観を文字どおりに受け入れる人は2%にすぎない。今はキリスト教徒の価値観も変わり、最新のトレンド(今ならBLMへの連帯)を受け入れるようになっているからだ。

「クリスチャニティー・トゥデー」は福音派に人気の雑誌だが、昨年、トランプに辞任を求める記事を掲載したら購読者が急増した。今年6月には同社会長のティモシー・ダルリンプルが「今こそ教会は人種的な罪を償え」と呼び掛ける論説を掲げた。

この論説は進歩派から高く評価されたが、もちろん保守派には受けなかった。その1人で元インディアナ州下院議員のドン・ボーイズは、それを「典型的な左翼のプロパガンダ」とこき下ろした。

福音派でも若者に人気があり、反トランプ色の濃い「レレバント」誌の創刊者キャメロン・ストラングも、1年前にスタッフから「社会的弱者への無神経さ」を批判され、現場を離れた。その際にストラングは、「私の有害さと無神経さを申し訳なく思う」と謝罪している。

キリスト教系の刊行物では左派と目される「ソジャーナーズ」誌でも似たようなことが起きた。同誌の編集長を何十年も務めたジム・ウォリスは民主党オバマ政権に協力し、誌面でも気候変動や移民問題、対テロ戦争などでリベラルな意見を表明してきた男だが、この8月には編集長を辞している。どうやら編集部内で「目覚め」が足りないと批判されたらしい。

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