最新記事

2020米大統領選

キリスト教福音派で始まった造反がトランプの命取りに

Trump’s Headache from the Right

2020年10月27日(火)18時40分
ポール・ボンド

「トランプを支持する福音派」を立ち上げ支持固めを狙ったが(1月) EVA MARIE UZCATEGUI-REUTERS

<トランプ政権の岩盤支持層はキリスト教の保守派だが、その白人信者の間に深刻な亀裂が生じている。大統領選の鍵を握る福音派内部では何が起きているのか>

間近に迫るアメリカ大統領選、その行方を左右するキーワードの1つが「2%」だ。ある試算によれば、4年前の選挙でドナルド・トランプを圧倒的に支持したキリスト教福音派のうち2%が、もしも心変わりして民主党候補ジョー・バイデンに一票を投ずれば、トランプに勝ち目はない。

もちろん机上の計算だが、4年前のトランプが激戦州ペンシルベニアを制したときの票差は、わずか4万4000票。福音派の白人有権者が鍵を握ったとされる(当時、トランプは全国平均で福音派白人有権者の81%の支持を得ていたとされ、今夏の調査でも83%だった)。

福音派──。それはキリスト教で最も保守的な、つまり聖書の教えを(少なくとも建前としては)文字どおりに信ずる会派の総称だ。アメリカでは「南部バプテスト連盟」などが含まれる。政治的には共和党の牙城だが、この4年間で内部に亀裂が生じ、社会の現実に目を向ける人が増えており、福音派の本流からは皮肉を込めて「お目覚め」派と呼ばれている。

フィル・ビッシャーはその1人。『野菜人の話』と題する子供向けの人気アニメを制作した人物だ。擬人化されたブドウやアスパラガスを通じて聖書の教えを説く物語だが、去る6月、ビッシャー自身が登場する動画をYouTubeに投稿し人種問題について語り掛けた。例えば黒人世帯の資産は白人世帯の1割に満たないというアメリカの現実。軍隊並みに武装した警官の話もあり、黒人=犯罪者と決め付けたがる一部メディアや、無自覚に白人生徒をえこひいきする教師を批判してもいた。

彼は「お目覚め」派の代表格で、リベラル派の主張に賛同するだけでなく、トランプの再選阻止も目標の1つに掲げている。彼の動画は再生回数が既に800万を超え、しかも視聴者の反応の9割方は好意的だという。


BLMを支持する一派

「お目覚め」派も保守的なキリスト教徒だが、その多くは在来の宗教右派と一線を画している。宗教右派は概して人工妊娠中絶や同性婚などの進歩的主張に反対し、女性に対する男性の、有色人種に対する白人の優越を信じている。だが「お目覚め」派は違う。ビッシャーも「宗教右派の歴史には人種差別が見え隠れしている」と指摘する。

激戦州ペンシルベニアの主要都市フィラデルフィアでエピファニー・フェローシップ教会を率いるエリック・メーソン牧師も、信者に人種差別や社会的不正との戦いを呼び掛け、「お行儀のよい無難な話で済ませず、世直しをしてキリストの再来に備えるべきだ」と説いている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中