最新記事

2020米大統領選

キリスト教福音派で始まった造反がトランプの命取りに

Trump’s Headache from the Right

2020年10月27日(火)18時40分
ポール・ボンド

一方、『社会的正義が教会へ──現代アメリカ福音主義の新たな左派』の著者ジョン・ハリスは、多くのキリスト教系刊行物が今は大きく左傾化していると指摘する。

2年前には複数のキリスト教指導者が「社会的正義と福音に関する声明」を発表。彼らは「世俗文化の価値観が人種、民族、女らしさや男らしさ、人間の性の分野において聖書の言葉の力を弱めていることを大いに懸念」すると述べ、「越えてはならない一線を明確に」しようとした。

信仰の力が問われる時

しかし流れは変わらない。南部バプテスト連盟の熱心な信者S・トルエット・キャシーの創業した大手ファストフード店「チックフィレイ」でさえ、今は現経営者ダン・キャシーからのメッセージという形で、白人至上主義との論戦に加わっている。

「この国では制度的な不平等や偏見について話すと批判を集めることになる」とキャシーは嘆き、「この国の民主的資本主義はごく一部の裕福な家族や個人、企業だけに恩恵をもたらし、今やアメリカン・ドリームは彼らとその子孫だけのものになってしまった」と指摘している。その上で彼は、私たちは今こそ「意識して困難な議論をすべきだ」と主張する。

皆が「間違いを恐れて議論を避ける」というキャシーの指摘は正しいかもしれない。

キリスト教系世論調査会社バルナグループの報告(9月15日付)によれば、白人キリスト教徒は1年前に比べ、人種間の不平等の問題に取り組む意欲が弱くなっている。「意欲がない」人の割合は昨年の23%から36%に増えた(非キリスト教徒を含むアメリカ人の成人全体でも昨年の20%から28%に増加)。

バルナ自体が「お目覚め」派になったという指摘もある。同社は最近、キリスト教徒に人種について議論させるためのさまざまなツールを導入した。また近く「人種間の正義統一センター」と共同で「多様性を超えて」と題する報告も発表する予定だ。

「白人キリスト教徒に、黒人キリスト教徒の体験を理解してもらいたい。アメリカにおける黒人教会の力について、私たちはもっときちんと説明すべきだと思う」。バルナのデービッド・キンナマン社長は本誌にそう語った。大統領選と新型コロナウイルスで揺れる時期だからこそ「信仰の力」が問われる、とも。

そのとおり。トランプの運命も信仰の力で決まる。

<2020年11月3日号掲載>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米サウジ投資イベント、シェブロンやファイザーのCE

ビジネス

仏、企業から92億ユーロの新規投資を獲得

ワールド

メンフィスへの州兵派遣を一時差し止め、テネシー州裁

ワールド

インドネシア火力発電の廃止計画に暗雲 先進国からの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 7
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中