最新記事

日本人が知らない ワクチン戦争

ワクチンはコロナ対策の「最終兵器」ではない──国立感染研・脇田所長に独占インタビュー

A VACCINE IS NOT THE ULTIMATE WEAPON

2020年10月22日(木)17時40分
広野真嗣(ノンフィクション作家)

──副反応への不安などから接種を拒む人が続出する可能性もある。

重症化が懸念される65歳以上の人や、基礎疾患のある人は、臨床試験の結果を踏まえて接種してもらいたいと思う。

もう1つ重要なのは、20代の若者たちがワクチンを打ってくれるかどうか。彼らは感染しても風邪の症状が出るくらいで死亡リスクもほとんどない。しかし、彼らの間で接種が進まないまま活動的になってウイルスを運べば、再びお年寄りに感染させ、あるいは高齢者施設や病院で集団感染の火種となり得る。

北海道で最初の波が来ていた3月初旬、専門家会議が若者に向け「人が集まる風通しが悪い場所を避けて」と呼び掛けた。「世代間の分断になる」と批判も受けたが、この感染症の本質はここにあり、ワクチンについても若者への教育が重要だ。この点が蔓延防止の大きな課題だ。

──国内の管理供給体制にも特別な配慮が必要となると言われる。

海外から調達する新しいワクチン、とりわけmRNAワクチンはマイナス70度のコールドチェーン(低温物流)で管理しないと品質を確保できないと考える。運搬のためにはドライアイスパックで梱包し、保管にはディープフリーザーと呼ばれる特別な冷凍設備が要る。

1億2000万人が来年初めから夏頃までに接種すると仮定すれば、単純計算で1日当たり数十万人から100万人以上に注射する必要がある。ドライアイス詰めで配送されてきたロットごとに品質を確認し、解凍し、注射していく。また、異なる種類のワクチンが使用される可能性もあり、非常に大掛かりなオペレーションになりそうだ。

──ワクチンを打たない人も出るなかで感染拡大防止をどう展開するか。

対策の肝は、いかにして重症化を防ぐか。有効なのは「重症化予測」と「抗ウイルス薬」だ。最近の研究を通じて重症化予測因子が特定され、血液検査で該当する人を早めに判定できるようになってきた。

陽性が判明したトランプ米大統領は即座に抗ウイルス薬であるレムデシビルを投与されたが、早期に抗ウイルス薬を投与することが重症化防止に効果が高いと分かってきている。早期検知というと検査の拡充が強調されがちだが、実は、ポイントは検査の前段にあることも見えてきた。

つまり、検査すべき人をあぶり出す健康観察のシステムづくりだ。例えば長崎で集団感染が発覚したクルーズ船で事態の悪化を食い止めるのに奏功した鍵は、急きょ開発・導入した健康観察用のアプリにあった。「喉の違和感」や「発熱」といった項目に日々、乗船者に端末で回答してもらったことで、検査すべき人は誰か、その兆候を早期に把握できた。

経済社会活動の再開にワクチンが有効なのは確かだが、健康観察の仕組みを学校や職場にも持ち込むことで効果を補えば、日本は日本のやり方で、感染拡大を社会全体で抑え込めるのではないだろうか。

<本誌2020年10月27日号「日本人が知らないワクチン戦争」特集より>

ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 7
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 8
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中