ワクチンはコロナ対策の「最終兵器」ではない──国立感染研・脇田所長に独占インタビュー
A VACCINE IS NOT THE ULTIMATE WEAPON
──副反応への不安などから接種を拒む人が続出する可能性もある。
重症化が懸念される65歳以上の人や、基礎疾患のある人は、臨床試験の結果を踏まえて接種してもらいたいと思う。
もう1つ重要なのは、20代の若者たちがワクチンを打ってくれるかどうか。彼らは感染しても風邪の症状が出るくらいで死亡リスクもほとんどない。しかし、彼らの間で接種が進まないまま活動的になってウイルスを運べば、再びお年寄りに感染させ、あるいは高齢者施設や病院で集団感染の火種となり得る。
北海道で最初の波が来ていた3月初旬、専門家会議が若者に向け「人が集まる風通しが悪い場所を避けて」と呼び掛けた。「世代間の分断になる」と批判も受けたが、この感染症の本質はここにあり、ワクチンについても若者への教育が重要だ。この点が蔓延防止の大きな課題だ。
──国内の管理供給体制にも特別な配慮が必要となると言われる。
海外から調達する新しいワクチン、とりわけmRNAワクチンはマイナス70度のコールドチェーン(低温物流)で管理しないと品質を確保できないと考える。運搬のためにはドライアイスパックで梱包し、保管にはディープフリーザーと呼ばれる特別な冷凍設備が要る。
1億2000万人が来年初めから夏頃までに接種すると仮定すれば、単純計算で1日当たり数十万人から100万人以上に注射する必要がある。ドライアイス詰めで配送されてきたロットごとに品質を確認し、解凍し、注射していく。また、異なる種類のワクチンが使用される可能性もあり、非常に大掛かりなオペレーションになりそうだ。
──ワクチンを打たない人も出るなかで感染拡大防止をどう展開するか。
対策の肝は、いかにして重症化を防ぐか。有効なのは「重症化予測」と「抗ウイルス薬」だ。最近の研究を通じて重症化予測因子が特定され、血液検査で該当する人を早めに判定できるようになってきた。
陽性が判明したトランプ米大統領は即座に抗ウイルス薬であるレムデシビルを投与されたが、早期に抗ウイルス薬を投与することが重症化防止に効果が高いと分かってきている。早期検知というと検査の拡充が強調されがちだが、実は、ポイントは検査の前段にあることも見えてきた。
つまり、検査すべき人をあぶり出す健康観察のシステムづくりだ。例えば長崎で集団感染が発覚したクルーズ船で事態の悪化を食い止めるのに奏功した鍵は、急きょ開発・導入した健康観察用のアプリにあった。「喉の違和感」や「発熱」といった項目に日々、乗船者に端末で回答してもらったことで、検査すべき人は誰か、その兆候を早期に把握できた。
経済社会活動の再開にワクチンが有効なのは確かだが、健康観察の仕組みを学校や職場にも持ち込むことで効果を補えば、日本は日本のやり方で、感染拡大を社会全体で抑え込めるのではないだろうか。
<本誌2020年10月27日号「日本人が知らないワクチン戦争」特集より>
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