最新記事

中国

習近平の軍民融合戦略と、それを見抜けなかった日本

2020年10月20日(火)21時48分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

そこで習近平は、何としても中国経済を破壊することなく強軍大国・中国を建設するための阻害要素を取り除いた。

それが「反腐敗運動」である。

軍民融合戦略を完遂させるための反腐敗運動を権力闘争と叫んだ日本

習近平政権誕生とともに「トラもハエも同時に叩く」をスローガンに激しい反腐敗運動が展開されたのは記憶に新しい。逮捕投獄された公安の利益集団・周永康、軍の最大利益集団・徐才厚など、枚挙に暇がない。

日本の中国研究者、ジャーナリスト、メディアに至るまで、一斉に「権力闘争」と叫ぶ大合唱が始まった。たまりかねてNHKの懇意にしていた解説委員に「違いますよ」と知らせたら、それっきり縁を切られてしまった。また私が尊重していた(可愛がっていた)チャイナウォッチャーが「権力闘争が分からなければ中国の真相はわからない」という類の主張をし始めたので、「あなたの分析はいつも興味深いけれど、こればかりは違いますよ」と知らせたら「どうぞ、お構いなく!」という絶妙な返事が来た。見事だ。この切り返しは正直、うまいと思った。

「いや、権力闘争と見たが最後、中国の真相は見えなくなるんですよ」と言いたかったが諦めた。

もう官から民まで「習近平の権力闘争」という、実態とは異なる大合唱が日本を覆いつくした。

「そのような見方をしていたら、今に日本は痛い目に遭う」と唱える遠藤は「変わり者」として扱われたのか、一部を除いたメディアは私には話をさせないという状況を作り出したほどだ。

日本人の視聴者が喜ばないからである。

これが日本のメディアだ。いっときの日本人の「受け」でジャーナリズムが動くという、日本のこの恐ろしさよ――。

習近平としては実にありがたかっただろう。

何といっても彼の真の狙いである「民の衣を着た軍事産業」を覆い隠すことが出来たのだから。

軍民融合発展戦略の本格化と日本への勧誘

2014年に反腐敗運動もピークを越え、軍民融合のための最大の阻害となっていた「軍を中心として中国全土に根を張っていた利益集団」はほぼ牢獄行きとなったので、2015年3月12日、習近平は中央軍事員会主席として、「軍民融合発展戦略」を正式に発表した。これにより「中国の夢、強軍の夢」が実現されるのだと彼は声を張り上げた。 

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相、ガザへ「強力な」攻撃指示 ハマスの

ワールド

米テキサス州、鎮痛剤「タイレノール」製造2社提訴 

ワールド

米中首脳、フェンタニル規制条件に関税引き下げ協議へ

ビジネス

ユナイテッドヘルス、25年利益見通し引き上げ 成長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持と認知症リスク低下の可能性、英研究
  • 4
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 5
    「ランナーズハイ」から覚めたイスラエルが直面する…
  • 6
    「何これ?...」家の天井から生えてきた「奇妙な塊」…
  • 7
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 8
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理…
  • 9
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中