最新記事

BOOKS

「食事は食パンとキムチと水だけ」バイトにもありつけない韓国の若者たち

2020年10月2日(金)16時55分
印南敦史(作家、書評家)

若者たちは愚直なまでに勤勉で誠実、実力も高かったが

では就職で勝ち抜くことができれば幸福かといえば、そう簡単な問題でもないようだ。


 日本でも販売されているラーメンなどを製造する大手食品企業で勤続3年目となるオ・テグさん(仮名・38歳・男)。彼は英語、韓国語、スペイン語と中国語の4か国語ができ、IT関連の各種資格を持つハイスペック人材だ。(36ページより)

名門大学を2年間休学して海外を放浪。帰国後は半年ほどかけて就活を行う。エントリーシートを出した50社中、5社は最終面接まで辿り着き、そのうち大企業数社から内定を獲得したというのだから、先の女性と比較するまでもなく恵まれているようにも感じる。だが思いは複雑で、生まれたばかりの子どもには同じような競争は経験させたくないと話す。


「食品業界は社風も保守的で、イノベーションが必要とされないので業務は単調です。ほかに内定していた会社にすれば良かったと悔やまれます。かといって、今辞めても僕の歳ではほかの業種への転職は厳しい」
 人気の大手企業に就職し、活躍する立場にまでなっても、その幸福度は低いようで、「これで良かったのかと逡巡する毎日」と、テグさんは話す。(36ページより)

話を聞いた韓国の若者たちの印象を、著者は「愚直なまでに勤勉で、自他に対し誠実であろうとし、実力も高かった」と記している。本書を通じて彼らの声を知る限り、私も同じような印象を抱いた。

彼らが正しく評価され、各人がその能力を発揮できる韓国社会が訪れてほしいと思う。そして、そんな状況だからこそ、日本の若者の役割も大きいだろう。

近年は日本文化に興味を持ち、日本語を覚え、働きにやってくる韓国の若者も多い。逆も然りで、韓国に魅力を感じ、韓国に定住する日本の若者も少なくない(私の知人にも、ソウルで単身生活を送っている女性がいる)。

少なくとも若者の間では従来の「日高韓低」の構図からフラットで自由な関係への変化が始まっているのだ。しかも現実問題として日本もまた、若者が虐げられる国だ。

いろいろな意味で両国の若者には共通項があるわけで、そのあたりに良好な状態へとつながる突破口があるように思えるのである。


韓国の若者
 ――なぜ彼らは就職・結婚・出産を諦めるのか』
 安宿緑 著
 中公新書ラクレ

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中国防相会談、米の責任で実現せず 台湾政策が要因

ワールド

ロシア新型ミサイル攻撃、「重大な激化」 世界は対応

ビジネス

米国株式市場=上昇、ダウ・S&P1週間ぶり高値 エ

ビジネス

NY外為市場=ドル1年超ぶり高値、ビットコイン10
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中