「食事は食パンとキムチと水だけ」バイトにもありつけない韓国の若者たち
若者たちは愚直なまでに勤勉で誠実、実力も高かったが
では就職で勝ち抜くことができれば幸福かといえば、そう簡単な問題でもないようだ。
日本でも販売されているラーメンなどを製造する大手食品企業で勤続3年目となるオ・テグさん(仮名・38歳・男)。彼は英語、韓国語、スペイン語と中国語の4か国語ができ、IT関連の各種資格を持つハイスペック人材だ。(36ページより)
名門大学を2年間休学して海外を放浪。帰国後は半年ほどかけて就活を行う。エントリーシートを出した50社中、5社は最終面接まで辿り着き、そのうち大企業数社から内定を獲得したというのだから、先の女性と比較するまでもなく恵まれているようにも感じる。だが思いは複雑で、生まれたばかりの子どもには同じような競争は経験させたくないと話す。
「食品業界は社風も保守的で、イノベーションが必要とされないので業務は単調です。ほかに内定していた会社にすれば良かったと悔やまれます。かといって、今辞めても僕の歳ではほかの業種への転職は厳しい」
人気の大手企業に就職し、活躍する立場にまでなっても、その幸福度は低いようで、「これで良かったのかと逡巡する毎日」と、テグさんは話す。(36ページより)
話を聞いた韓国の若者たちの印象を、著者は「愚直なまでに勤勉で、自他に対し誠実であろうとし、実力も高かった」と記している。本書を通じて彼らの声を知る限り、私も同じような印象を抱いた。
彼らが正しく評価され、各人がその能力を発揮できる韓国社会が訪れてほしいと思う。そして、そんな状況だからこそ、日本の若者の役割も大きいだろう。
近年は日本文化に興味を持ち、日本語を覚え、働きにやってくる韓国の若者も多い。逆も然りで、韓国に魅力を感じ、韓国に定住する日本の若者も少なくない(私の知人にも、ソウルで単身生活を送っている女性がいる)。
少なくとも若者の間では従来の「日高韓低」の構図からフラットで自由な関係への変化が始まっているのだ。しかも現実問題として日本もまた、若者が虐げられる国だ。
いろいろな意味で両国の若者には共通項があるわけで、そのあたりに良好な状態へとつながる突破口があるように思えるのである。
『韓国の若者
――なぜ彼らは就職・結婚・出産を諦めるのか』
安宿緑 著
中公新書ラクレ
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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。
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