最新記事

BOOKS

「食事は食パンとキムチと水だけ」バイトにもありつけない韓国の若者たち

2020年10月2日(金)16時55分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<韓国は「大卒貧困者の割合が世界トップレベル」の社会。BTSや『愛の不時着』が世界でヒットしても、若者たちの「現実」は想像以上だ>

8月末、ポップグループ、BTSのシングル「Dynamite」が米ビルホード「HOT 100」で1位を獲得して話題になった。それに先駆け昨年から映画『パラサイト 半地下の家族』が大ヒットしてもいる。『梨泰院クラス』『愛の不時着』と、ドラマも好調だ。

そんなところからも分かるとおり――少なくとも文化的な面においては――韓国には先進的かつ洗練されたイメージがあると言えるだろう。

ところが、『韓国の若者――なぜ彼らは就職・結婚・出産を諦めるのか』(安宿緑・著、中公新書ラクレ)の見解は少し違っているようだ。著者は東京に生まれ、小平市の朝鮮大学校を卒業した後は米国系の大学院を修了。朝鮮青年同盟中央委員退任後に、日本のメディアで活動を開始したというライター、編集者である。


 2020年2月、韓国映画「パラサイト――半地下の家族」(ポン・ジュノ監督)がアカデミー賞で作品賞など4つの部門を受賞するという、外国語の映画として初の快挙を遂げた日、筆者はソウルにいた。筆者が現地のバーや露店で若者にその話題を振ると、嬉しくてたまらない、といった様子の人はほとんど見受けられなかった。市井の反応など大体はそんなものであるが、むしろ「それどころじゃない」、そんな心の声が伝わってくるかのようだった。取材を進めていくと、この温度差こそが「パラサイト」が断片的に描き出したリアルであったということを認識するようになった。(「はじめに」より)

理由は、1999年6月以降最多だという失業者数の多さだ。そのうち6割が15〜29歳で、全年齢中最も多かったという。

しかしその一方、大学進学率は70%台で推移しており、国民の約8割が大卒にあたる。ところが大卒者であっても、一握りの者しか入社できない財閥系大企業の正社員になれなければ、30歳で年収2000万〜3000万ウォン、つまり日本円に換算すれば200万〜300万円に留まり、生涯賃金の格差は大きい。

「高学歴貧困者」の数が世界トップレベルにあるため、多くの若者が必然的に大企業を目指しては落ち、人生を浪費するのだ。そう聞くだけでは実感が伴わないかもしれないが、本書を読み進めていくと、想像を超えた韓国の若者の"現実"に驚かされることになる。


 韓国南東部の港湾都市、釜山出身のミン・チュナさん(仮名・23歳・女)は2019年1月に技術系の短大を卒業し、今は仁川で一人暮らしをしている。
 家賃は46万ウォン。卒業と同時に教授の斡旋でウェディングプランナーとして就職できたが、そこは朝10時から夜7時まで働いて月給が80万ウォンという、いわゆる「ブラック企業」だった。
「友達はホテルに就職して月給220万ウォンもらっているのに......。私は家賃とスマホ代だけでカツカツ。これならバイトのほうが倍以上は稼げると思い、昨年10月に退職したんです」(28〜29ページより)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中