最新記事

欧州難民危機

溺死した男児の写真から5年──欧州で忘れられた難民問題

WHERE’S THE “EXTRA COMPASSION”?

2020年10月2日(金)16時00分
アレックス・ハドソン

magf201001refugee2.jpg

ベルリンで難民申請を終えた青年と写真に納まるメルケル首相(2015年) FABRIZIO BENSCH-REUTERS

その結果、状況は再び悪化している。今年3月にはトルコから国境を越えて来る大勢の人々に、ギリシャの警備当局が催涙ガスやゴム弾を浴びせている。

英仏海峡は絶対に渡らせない

2015年に100万人を受け入れたドイツも、次に難民が押し寄せてきたときには国境を越えさせないと断言している。ポーランドとハンガリー、そしてチェコはEU加盟各国に割り当てられた移民・難民の受け入れ枠を守らずに非難されているが、いっこうに態度を変えない。

イギリスでは、英仏海峡をボートで渡って不法入国を試みる例が増えている。そのためプリティ・パテル内相は、不法入国を阻止する専門の担当官を任命した。小型船による海峡横断を取り締まり、国境管理を強化することが主な任務だ。担当官のダン・オマホニーはかつて海軍の精鋭部隊に所属し、イラクやコソボで戦った経験がある。

オマホニーの任命から1週間後、イギリスへの渡航を試みた簡易ボートが転覆し、スーダン人の男性1人が死亡する事故があった。この件についてオマホニーは本誌のメール取材に対し、「悲劇的な出来事だが、英仏両国が協力して(不法入国者が)このルートを絶対に使えないようにすることの重要性」が再確認できたと指摘し、「徹底した監視と、フランス北部の当局との情報共有や警戒を強化」すると伝えてきた。

しかし、特定の入国ルートを「絶対に」使えなくするという方針には問題が多い。国際法に照らしてどのような対応が許され、どこからは許されないのか、議論は尽きない。

そもそも、国連は「いかなる難民にも安全な場所に避難する権利がある」としており、そこには安全な場所まで「旅をする権利」も含まれるとの解釈もある。そうであれば、地中海や英仏海峡を必死で渡ろうとする人たちの命は守られるべきだ。しかし移民を忌み嫌う人たちは、そんなことを認めたら欧州大陸へ「不法に」上陸しようとする人が増えるだけだと猛反発している。

「イギリスに小型船で不法入国を試みても成功しないというメッセージを送れば、密航仲介業者は諦める」と言うのは、移民規制派の団体マイグレーション・ウオッチUKのアルプ・メフメト会長。「イギリスに住もうとするのは彼らの選択だ。誰も、それに命を懸けろと強いてはいない。簡単に入国できると思うからやって来るだけだ」

「選択」とは巧妙な表現だ。しかし難民は、好きで行き先を選ぶのではない。やむにやまれず選んでいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、リスク資産反発受け 円は衆

ワールド

トランプ氏、インドへの25%追加関税撤廃 ロ産石油

ビジネス

米FRBは年内1─2回の利下げ必要=SF連銀総裁

ワールド

トランプ氏、イランとの取引国に「2次関税」 大統領
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近したイラン製ドローンを撃墜
  • 2
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入った「最強ライバル」の名前
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    地球の近くで「第2の地球」が発見されたかも! その…
  • 7
    鉱物資源の安定供給を守るために必要なことは「中国…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 10
    「エプスタインは悪そのもの」「悪夢を見たほど」──…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 7
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 8
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 9
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 10
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中