最新記事

インドネシア

菅首相、来週訪問のインドネシアはコロナ急増でASEAN内最悪に さらに懸念される中国を意識した無謀な経済援助

2020年10月15日(木)21時45分
大塚智彦(PanAsiaNews)

10月20、21日に日本の菅首相(左)がインドネシアを訪問、ジョコ・ウィドド大統領(右)と会談する。 REUTERS-Carl Court/Feline Lim

<外交手腕は未知数と言われる菅首相。その初の外遊先にはさまざまな危険が待ち構えている>

10月15日、インドネシアの新型コロナウイルスへの感染者数が、東南アジア諸国連合(ASEAN)で最多を記録していたフィリピンを追い越し域内最多の34万9160人に達した。保健省などによる感染関連統計で明らかになった。

死者数は以前からインドネシアが域内では突出して多く、これで感染者、死者ともにインドネシアがASEAN域内で「最もコロナ禍に見舞われている国」となった。

インドネシア保健省やコロナ対策本部が15日午後4時過ぎに公表した統計によると、感染者34万9160人・死者1万2268人でASEAN域内ワーストとなった。次いでフィリピンが感染者34万8698人・死者6497人となっっている。

今年3月にインドネシア国内でインドネシア人へのコロナ感染が初確認されて以来、感染者、死者ともに急激な増加を記録してきた。

周辺国でコロナ感染が広がるなか、「イスラム教信仰が感染を防いでいる」「既に存在する多様なウイルスがインドネシア人の体内に抗体をつくっている」「熱帯の高温がウイルスを死滅させている」などという極めて非科学的なデマ・迷信が広まり、早めの感染防止策を怠ってきた「ツケ」で3月以降感染者・死者の急激な増加が続いた。

フィリピンに抜かれたことで油断

ところが8月6日に感染者数は同じく急激な感染拡大が深刻なフィリピンに抜かれ、域内2位となった。世界4位という約2億7000万人という人口を擁するインドネシアは、この時「対人口比」という数字を挙げて「フィリピンに比べたらインドネシアの感染状況は深刻ではない」と「安堵と油断」がインドネシアを覆った。

それが国民の警戒感や緊張感の弛緩を促進し、政府も「広域の都市封鎖(ロックダウン)を含めて強い対応策導入に消極的」(ジョコ・ウィドド大統領)であることとあいまって、再び感染者数でフィリピンに迫り、追い抜く結果を招来してしまったといえる。

この間インドネシア政府が行ってきたコロナ感染拡大防止対策はといえば、経済活動に与える影響に考慮して大規模なロックダウンを極力回避し、「マスク着用」「手洗い励行」「社会的安全距離確保」という保健衛生上のルール厳守と違反者への罰則、罰金という対処療法に終始していた。

9月24日には死者がついに1万人を超える事態になり、その後も感染者・死者は増え続けていた。

感染症専門家を無視、医療は崩壊寸前

こういう状況を招いた要因の一つは、インドネシア大学医学部や公衆衛生学部などの感染症専門家、疫病専門家さらに各大学の医療専門家、最前線の現場で治療にあたる医師や看護師による度重なる忠告や提言を政府や一部地方自治体が悉く無視してきたことだ。

「ロックダウンが必要不可欠」「3密回避だけでは感染防止はできない」「医師や看護師の感染防止が不十分」などの進言は聞きおかれ、インドネシア医師協会(IDI)などによればこれまでにコロナ禍で死亡した医師は115人以上、看護師は70人以上に達し、感染者を収容する施設、病床も不足気味で医療崩壊がすでに始まっているとの指摘もある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国国民年金、新たなドル調達手段を検討 ドル建て債

ビジネス

台湾輸出、11月は15年半ぶりの伸び AI・半導体

ビジネス

中国政府系ファンドCIC、24年純利益は前年比30

ビジネス

独ティッセンクルップ、26年は大幅赤字の見通し 鉄
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 9
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 10
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中