最新記事

アメリカ政治

トランプの新型コロナ感染が安全保障に及ぼす4つのリスク

The Dangerous Foreign-Policy Fallout of Trump’s COVID-19 Diagnosis

2020年10月6日(火)16時25分
マイカー・ゼンコー(米外交問題評議会フェロー)

自分の病気から国民の注目を逸らすために、あるいは自分の強さをアピールするために、トランプが強烈な、さらに事態をエスカレートさせるような軍事攻撃を承認する可能性も考えられる。彼がアメリカの機密扱いの偵察衛星が撮影したイランの衛星打ち上げ事故の写真をツイッターに投稿したこともあることを考えると、その軍事攻撃がもたらした被害を写した生々しい画像が公開されることもあり得る。

トランプはこれまで、紛争の続くイラクやシリア、パキスタンやソマリアに(オバマよりも)多くの空爆を承認してきたが、大規模な、新たな軍事攻撃は承認していない。それでも病気の影響でトランプが急に変心し、過激かつ軽率な戦争を承認する可能性も考えられる。

3つ目の問題は、敵対勢力がトランプの病気をチャンスと捉え、自分たちの目標を推し進めようとする可能性が幾らかあることだ。だがこのシナリオが実現する可能性は低い。理由は単純で、アメリカの外交政策はトランプ政権の下、既に大きく道を踏み外しているからだ。トランプ政権は経済や外交に関する真に有意義な二国間協定を締結せず、国際組織の中で維持してきた(中国に対する)指導的役割を放棄し、同盟諸国への関与を低下させてきた。アメリカのこうした姿勢は、国際社会が共通の目的の達成を目指すことを不可能にした。つまりアメリカは、わずか4年で「怠惰な超大国」と化したのだ。

地に落ちたホワイトハウスの信用

アメリカの敵対勢力は今では、それぞれの国益を堂々と追求しても、米政府がさほど反発してこないことを知っている。だから彼、トランプが病気になったからといって、わざわざ眠れる獅子を起こす必要がない。たとえば中国が台湾に侵攻するような「一線を超える」行動に出る必要はないのだ。

4つ目の問題は、新型コロナウイルスに関する数々の嘘や矛盾によって、トランプ政権の信用がいよいよ失墜したことだ。うまい嘘をつくためには、練習や工夫が必要だ。だがトランプ政権はこれまであまりに長い間、あまりに下手な嘘をつき続け、それでも一切その報いを受けてこなかったため、人を欺く技術が取り返しのつかないほどに衰えている。

歴代のどの大統領の時代と比べても、ホワイトハウスが出す声明の信頼性が損なわれている。国の安全保障が危機にさらされている時に、大統領の健康について本当の、あるいは説得力のあることが言えない政府の言葉を誰が信じるだろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECBの金融政策修正に慎重姿勢、スロバキア中銀総裁

ビジネス

キンバリークラーク、「タイレノール」メーカーを40

ビジネス

米テスラの欧州販売台数、10月に急減 北欧・スペイ

ビジネス

米国のインフレ高止まり、追加利下げ急がず=シカゴ連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中