最新記事

米中対立

瀬戸際の米中関係 文化面の「デカップリング」はアメリカの致命傷に

CULTURAL DECOUPLING BAD FOR U.S.

2020年8月29日(土)14時10分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)

優秀な中国人留学生はアメリカの財産なのだが COMSTOCK IMAGES-STOCKBYTE/GETTY IMAGES

<アメリカの対中強硬派は文化・教育面でも中国との関係を断とうとしているが、若い世代との接点を失うことは賢明でも生産的でもない。その理由とは>

親密な関係の解消を「デカップリング」と呼ぶ。現在の米中両国の地政学的バトルを形容するにふさわしい言葉だが、トランプ米大統領と政権内の強硬派は一歩進めて、この戦略で中国パワーをそぐつもりらしい。

デカップリングの始まりは一昨年来の貿易戦争だ。これで両国間の貿易は大幅に縮小した。今は情報通信技術が主戦場で、華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)などの中国企業を次々に排除しようとしている。アメリカ市場に上場する中国企業に対し、過去の監査記録を開示しなければ上場を廃止するとの意向も示しており、金融のデカップリングも始まっている。

経済面の関係遮断で中国を封じ込められる保証はない。が、いちおう理屈は通る。中国がアメリカとの経済関係で潤っているのは事実だから、それを断てば中国経済の成長は抑えられるだろう。

だが不幸にして、対中強硬派は文化や教育面の関係も断とうとしている。1月には議会共和党の圧力で、四半世紀来の平和部隊(日本の青年海外協力隊に相当)の派遣が中止になった。7月には中国による香港民主派に対する弾圧強化への報復として、フルブライト奨学生の招聘が中止された。アメリカの大学院で科学技術を学びたい中国人学生の入国を禁じる法案も、議会に提出されている。

ジャーナリズムも断ち切られた。今年2月、米紙ウォールストリート・ジャーナルが中国は「アジアの病人」だとする論評を載せると、中国は同紙の特派員3人を国外追放した。するとアメリカは米国内にいる中国メディアの従業員60人に国外退去を命令。対抗措置として、中国も米主要3紙の米国人職員のほぼ全員を追放し、これら3紙の中国における取材活動を事実上不可能にした。

だが文化や教育などの面で中国との関係を断つのは、賢明でも生産的でもない。それではアメリカ文化の流入をイデオロギー的侵略と見なしてきた中国政府の対応と同じレベルになってしまう。

イデオロギー戦の武器を放棄

平和部隊やフルブライト奨学生のような制度がなければ、アメリカは中国の一般市民、とりわけ若い世代との接点を失ってしまう。こうした仕組みを通じて、アメリカは自国の言語や文化を中国人に伝え、中国政府による反米プロパガンダの効果を相殺してきたのだ。その廃止は、イデオロギー戦における武装解除に等しい。

【関連記事】「切り離してはならない」米中デカップリングに第2次大戦の教訓
【関連記事】コロナ禍、それでも中国から工場は戻ってこない

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ」が物議...SNSで賛否続出
  • 3
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 4
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 5
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 8
    高市首相の「台湾有事」発言、経済への本当の影響度.…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中