最新記事

香港

日本が国安法の対象になりつつある香港民主派逮捕と保釈

2020年8月13日(木)21時46分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

日本のアニメから覚えたようだが、かつて中国大陸では日本アニメは精神文化形成上、無害とされて海賊版が出回り中国大陸を席巻したことがある。

拙著『中国動漫新人類  日本のアニメと漫画が中国を動かす』で書いたように、1980年代に中国大陸に上陸した鉄腕アトムやスラムダンク、セーラームーン・・・などは、アメリカの「民主を武器として包んだ文化」と違い、政治的意図がないものとして大いに中国の全ての層に歓迎されたものだ。それに比べてアメリカのアニメはそれほど歓迎されたことはなく、特に1989年6月4日の天安門事件は、アメリカの「ジャズやロックあるいはヒッピー文化に隠されているカウンターカルチャー」が「民主という武器」の役割をして、それに惑わされた若者が起こしたものだと位置づけられた側面を持っている。

だから1990年4月に発表された基本法の第23条には「外国勢力」に対する警戒心が盛り込まれていたのである。

このとき中国は日本に対して「文化的には」無防備であった。

しかし今般の周庭さんの場合は違う。

「日本の皆さん、どうか助けて下さい」という、「香港の民主に関する日本への救助の要望」がそこに存在するのである。

すなわち、今般の逮捕・保釈などの一連の動きは、「日本が国安法の対象となった」ことを意味していることに気が付かなければならない。

これまでの「敵対的外国勢力」の中に、アメリカだけでなく「日本」が入ったということだ。

だからこそ、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)も周庭も国安法成立前から裁判中ではあるものの、国安法成立後に目立つ形で真っ先に逮捕したのが「日本に向かって日本語で呼び掛ける」周庭さんだったということになろう。

日本のメディアは一斉に横並びで「目立つものを追いかける」傾向にあるが、中国の真の狙いを見極める目が必要だろう。

と同時に、2047年には「一国二制度」は終わり、香港は特別行政区でなくなり中華人民共和国香港市という直轄市になるか、あるいは中華人民共和国広東省香港市などになるという現実が待っている。このとき香港は現在の「資本主義体制」ではなく「社会主義体制」の中に組み込まれることが明確になっている。民主や自由どころの騒ぎではない。

そのエンディングに向かって行く過程の中で、如何にして「香港の民主」を語るのか、そして民主が実現するのか、慎重に判断しながら前に進まなければならないのではないかとも思うのである。

(本コラムは中国問題グローバル研究所GRICIのウェブサイトからの転載である。)


中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(実業之日本社、8月初旬出版)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

この筆者の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中