最新記事

暴露本

トランプ姪の暴露本は予想外の面白さ──裸の王様を担ぎ上げ、甘い汁を吸う人たちの罪

How He Gets Away With It

2020年7月29日(水)17時40分
ダーリア・リスウィック(司法ジャーナリスト)

罪を問われるべきは、まずはドナルドを病的な男に育てた祖父フレッド。次にドナルドを増長させた家族と親族(ここには著者自身の家族も含まれる)。そして彼をのさばらせたメディア、彼を金儲けの天才であるかのごとく扱った銀行、彼を担いだ共和党、そして今なお彼の妄想を膨らませ続けている側近たちだ。

タイトルの「うんざりなのにやめられない」は、依存症患者の心理を見事に言い当てている。ドナルドは追従と名声、富と成功に溺れているし、アメリカは(少なくともアメリカの一部は)そんな男の魔力に救い難く溺れている。

著者メアリーは本書で、自身と兄フリッツがトランプ一族から捨てられた経緯を詳しく語っている。2人の父であるフレディは長男だから、祖父フレッドの築いた不動産帝国を継ぐ立場だったが、酒と病で絶望の奈落へと落ちた。叔父のドナルドは弱ったフレディを救うどころか、フレディを踏み台にして、祖父の財産と事業を受け継いだ。

後継者としての地位が固まると、一族はドナルドを中心とし、盛り立てる方向で動き始めた。死んだフレディの子であるメアリーと兄フリッツは相続権も奪われ、やがて縁を切られた。

これは悲劇だが、メアリーは子供の頃から身内の大人たちに失望していたようだ。連邦判事にまでなった伯母のマリアンら、地位も知性も高いはずの人々の情けない振る舞いを、彼女は淡々と描く。

身内だけではない。弁護士や会計士もドナルドの気まぐれを許し、失敗の尻拭いをしてきた。取り巻き連中や共和党の幹部、保守的なキリスト教団体は、彼の欠陥や問題点には目をつぶって彼の選挙を応援した。並み居る議員や閣僚も同類だ。

みんな、どこかで頭がおかしくなったのか? トランプ一族がフレディを見捨てたように、みんな他人の苦しみや犠牲を知りながらドナルドをかばい、甘い汁を吸っている。メアリーが幼時に受けたトラウマは、今やアメリカのトラウマだ。それが彼女には耐えられない。なぜ、こんなことを繰り返すのか?

本書で最も注目すべきは、ドナルドは「ホワイトハウスという『施設』に収容されている」ため、精神鑑定をしたくても手が出せないという主張だ。著者によれば、ドナルドは「成人してからずっと、施設に保護されて暮らしてきたようなもの。外の社会では成功どころか、生きていけるかどうかも怪しい」。

裸の王様を担いだ罪

こんなホワイトハウスは前代未聞だ。今のアメリカ大統領府は指導者が立つ演壇ではなく、壊れた男を守る場所、「警戒厳重で、壁には緩衝材が貼ってある非常に高価な独房」だとメアリーは書く。彼女が力説するのは、たとえ精神を病み、世間から隔離された男でも、社会全体に取り返しのつかない打撃を与えられるという事実だ。

【関連記事】劣勢明らかなトランプに、逆転のシナリオはあるのか?
【関連記事】米民主主義の危機 大統領選で敗北してもトランプは辞めない

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド政府、3500万人雇用創出へ 120億ドルの

ワールド

トランプ氏の対日関税引き上げ発言、「コメント控える

ワールド

米上院通過の税制・歳出法案、戦略石油備蓄の補充予算

ビジネス

物言う株主、世界的な不確実性に直面し上半期の要求件
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中