最新記事

BOOKS

沖縄は日本で最も自尊心の低い地域、とこの本の著者は言う

2020年7月21日(火)17時50分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<好景気の中で貧困が生じ、優しさの中で人が苦しむ――そんな沖縄の謎を16年前に沖縄に渡った元証券マンが分析した『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』>

かつて職場で、沖縄出身のアルバイト青年に働いてもらっていたとき、かなり戸惑ったことを憶えている。温厚で性格も穏やか、仕事もきちんとできるのに、時間にルーズであることを気にも留めないなど、こちらが"常識"だと思っていることが通用しない場面が多かったのである。

もちろん、彼が沖縄の全てではない。だが、『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』(樋口耕太郎・著、光文社新書)を読んだ結果、やはり"沖縄の人ならではの不可解さ"というものは少なからずありそうだと分かった気がした。

事実、著者も本書の冒頭で、沖縄には謎が多いことを認めている。

2012年以降、好景気が続いており、経済は絶好調。数々の特別措置と手厚い経済援助を受けているため、社会インフラの整備は全国で最も進んでいる地域のひとつ。一人当たりの県民所得は4年連続で上昇し、過去最高を更新。

ところがその一方で、都道府県別の県民所得では11年連続で全国最下位。賃金は全国の最低水準で、貧困率は全国平均の2倍。よく指摘されることだが、沖縄は日本でも突出した貧困社会だ。


 優しい沖縄人(ウチナーンチュ)、癒しの島......沖縄に魅せられた多くの人が、その最大の魅力は島の人の穏やかさ、温かさ、だと口をそろえる。
 またその一方で、沖縄社会における、自殺率、重犯罪、DV、幼児虐待、いじめ、依存症、飲酒、不登校、教員の鬱の問題は、全国でも他の地域を圧倒している。
 なぜ、「好景気」の中で貧困が生じ、「優しさ」の中で人が苦しむのだろう?(「はじめに 沖縄は、見かけとはまったく違う社会である」より)

本書は、こうした矛盾が沖縄でなぜ生じているのか、その「本当の理由」を論じたものだ。とはいえ著者は、さまざまな事情があって16年前から沖縄で暮らしているものの、沖縄に地縁があるわけではない。


 8年前に沖縄大学に採用されて以来、国際コミュニケーション学科の教員として、『観光経営論』や『幸福論』などを教えているが、それまでの二十数年間は、野村證券を振り出しに、金融・事業再生が私の主戦場だった。(「はじめに 沖縄は、見かけとはまったく違う社会である」より)

だが学生たちと接する中で、彼らが抱えるさまざまな障害を目の当たりにした。それらは学生だけが抱えるものではなく、沖縄県人全体の障害として捉えることができたのだという。

例えば"沖縄県人らしさ"を象徴するエピソードとして紹介されているのが「クラクション」の問題だ。

【関連記事】沖縄の風俗街は「沖縄の恥部」なのか?

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米中首脳会談、30日に韓国で トランプ氏「皆が満足

ビジネス

NY外為市場=ドル対円で上昇、翌日の米CPIに注目

ワールド

ロシア軍機2機がリトアニア領空侵犯、NATO戦闘機

ワールド

ガザへの支援「必要量大きく下回る」、60万人超が食
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 3
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 4
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 7
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 8
    「石炭の時代は終わった」南アジア4カ国で進む、知ら…
  • 9
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 10
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 10
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中