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ジェノサイド

ウイグル人根絶やし計画を進める中国と我ら共犯者

The World’s Most Technologically Sophisticated Genocide

2020年7月16日(木)19時10分
ライハン・アサット(弁護士、米テゥルク系民族弁護士協会会長) 、ヨナー・ダイアモンド(ラウル・ワレンバーグ人権センター・法律顧問)

新疆ウイグル自治区は2017年、「産児制限違反の取締り強化」を打ち出し、それに関連して市町村当局に一連の措置を命じた。目標は「産児制限違反ゼロ」。2019年までに出産適齢期の女性の80%超に子宮内避妊具(IUD)を装着させるか不妊手術を受けさせる計画が実施されることになった。

当局の文書では、2019年と2020年に公費で何十万件もの不妊手術が実施されたことが報告されている。人口1人当たりでは、中国で「一人っ子政策」が実施されていた時期に、全土で強制的に実施された件数をはるかに上回る不妊手術が行われたことになる。

当局は、目標達成のために情報網を張り巡らし、出産可能な年齢の女性を次々に呼び出した。呼び出されれば、強制的な不妊手術を受けるか、収容所送りになるしかない。収容所に入れられれば、注射や人工妊娠中絶を強いられたり、中身の不明な薬を飲まされたりする。

統計を見ると、当局は順調に目標を達成しつつある。

2015年から2018年の間に、ウイグル人地域では、人口増加率が84%も減っている。それと反比例するように、公式データでは、新疆ウイグル自治区における不妊手術の実施率が急増し(中国の他の地域では急減)、それに関連した公的支出も増加している。

徹底した監視システム

自治区のある地域では、2017年と比べ、2018年には、不妊になった女性は124%、夫と死別した女性は117%増加している。また、新疆ウイグル自治区の人口は中国全体の1.8%を占めるにすぎないが、2018年には中国のIUD装着の80%が新疆ウイグル自治区で実施されている。

強制的に装着されたIUDは、当局の許可なしには抜去できない。無断ではずせば、刑務所送りだ。自治区の都市カシュガルでは、出産適齢期の既婚女性のうち、2019年に出産した人は約3%にすぎなかった。自治区内の一部地域の最新版の年次報告書には、組織的な断種キャンペーンを隠蔽するためか、出生率のデータが記載されていない。自治区当局は人口動態データが物議をかもしたため、公式ホームページを閉鎖した。名目上は産児制限違反の取締りと言いつつ、その対象と規模を見れば、ウイグル人の出生を妨げる意図は明らかだ。

男性を収容し、女性を不妊にすることで、中国政府はウイグル民族の血統を完全に絶やそうとしている。分かっているだけでも50万人のウイグル人の子供が親元から引き離され、「児童シェルター」と称する施設に入れられている。

このジェノサイドは極めて特殊な危険性をはらんでいる。高度な技術を駆使して効率的に民族浄化が行われ、なおかつ国際社会の目を巧妙に逸らしているからだ。

最も高度な技術を誇る警察国家が、宗教、家族、文化から人間関係に至るまで、ウイグル人の生活の隅々まで監視の目を光らせ、統制している。監視を効率化するため、新疆ウイグル自治区は網の目状の管理システムを導入。人口約500人単位で市町村を分割し、1区間ごとに警察署を置いて、住民のIDカード、顔、DNAサンプル、指紋、携帯電話を頻繁にチェックしている。

<参考記事>ウイグル人権法案可決に激怒、「アメリカも先住民を虐殺した」と言い始めた中国
<参考記事>ウイグル女性に避妊器具や不妊手術を強制──中国政府の「断種」ジェノサイド

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