最新記事

ジェノサイド

ウイグル人根絶やし計画を進める中国と我ら共犯者

The World’s Most Technologically Sophisticated Genocide

2020年7月16日(木)19時10分
ライハン・アサット(弁護士、米テゥルク系民族弁護士協会会長) 、ヨナー・ダイアモンド(ラウル・ワレンバーグ人権センター・法律顧問)

巨大スクリーンから習近平が見下ろす新疆ウイグル自治区カシュガルはSFの監視国家さながら Thomas Peter -REUTERS

<男性を収容し、女性に不妊手術を施し、子供を親から引き離すおぞましい民族抹殺計画。ウイグル人の強制労働で作られたブランド製品やその消費者にとっても他人事ではない>

最近伝えられた2つのおぞましいニュースで、中国政府が新疆ウイグル自治区で行なっているウイグル人弾圧の残虐極まりない実態と恐るべきスケールに世界はようやく気づいた。

1つは、米シンクタンクの調査で、ウイグル人女性に組織的に不妊手術が行われている実態が明らかになったこと。そしてもう1つは、米税関と国境警備局が新疆ウイグル自治区から発送されたかつらや付け毛など毛髪製品13トンを押収したというニュースだ。これらは収容所に入れられたウイグル人の髪を強制的に切って作られたと見られる。

この2つの出来事は世界の別の地域で過去に行われた残虐行為とぞっとするほど重なり合う。一部の国々が、少数民族や障害者、先住民に断種手術を強制してきたこと。そしてアウシュビッツ収容所の展示室のガラスの向こうに山積みにされた毛髪の山......。

ジェノサイド条約(中国も締約国だ)では、集団の構成員に以下のような行為を加えることをジェノサイド(集団虐殺)と定義している。(a)殺す、(b)重大な肉体的または精神的危害を加える、(c)集団の物理的な破壊をもたらす生活条件を故意に強いる、(d)集団内の出生を妨げることを目的とした措置を課す、(e)集団内の子供を強制的に他の集団に移す。このうちの1つでも当てはまればジェノサイドと見なされる。夥しい数の証拠が示す中国政府の組織的なウイグル人弾圧は、これら全ての項目に当てはまる。

でっち上げの罪で投獄

ウイグル人は、テュルク系の少数民族で、多くは世俗的なイスラム教徒だ。中国政府は100万人超のウイグル人を強制収容所や刑務所に入れてきた。被収容者は軍隊式の規律を強いられ、思想改造や自己批判を強要される。虐待、拷問、レイプは日常的に行われ、殺されることすらある。生存者の証言から浮かび上がるのは、殴る蹴るの暴行、電気ショック、水責め、心理的ないじめ、中身の分からない注射を打つといった蛮行がまかり通っていること。身体的・心理的に耐えがたい危害を加え続けて、ウイグル人の精神を破壊することが、強制収容所の目的なのだ。

中国政府は繰り返し、「彼らの血筋を断て、彼らのルーツを壊せ、彼らの人脈を断ち切り、起源を破壊せよ」と命じてきた。「逮捕すべき者は1人残さず逮捕せよ」とも。

ウイグル人の出生率を組織的に下げる計画が実施されてきたことも明らかになった。そこから見えてくるのは、ウイグル民族そのものを抹殺しようとする中国政府の意図だ。

ウイグル人弾圧を象徴的に示すのが、この記事の執筆者の1人、レイハン・アサットの兄エクパル・アサットがたどった運命だ。中国共産党は以前、彼を模範的な中国人と認め、ウイグル人住民と新疆ウイグル自治区当局の「橋渡し役」を務め、「建設的な力」になっていると褒めたたえていた。しかし彼は2016年に突然消息を絶ち、伝えられるところによると、「民族の憎悪をあおった」というでっち上げの罪に問われ、15年の刑を言い渡されて服役しているという。私たちは当局に裁判記録の開示を請求したが、なしのつぶてだ。

<参考記事>中国は「ウイグル人絶滅計画」やり放題。なぜ誰も止めないのか?
<参考記事>ウイグル人権法案可決に激怒、「アメリカも先住民を虐殺した」と言い始めた中国

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産、タイ従業員1000人を削減・配置転換 生産集

ビジネス

ビットコインが10万ドルに迫る、トランプ次期米政権

ビジネス

シタデル創業者グリフィン氏、少数株売却に前向き I

ワールド

米SEC委員長が来年1月に退任へ 功績評価の一方で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中