最新記事

アメリカ経済

2度目のロックダウンで米企業10兆ドルの「債務爆弾」が破裂する

A $10 Trillion Corporate Debt Bomb is Waiting to Explode the U.S. Economy

2020年7月30日(木)18時55分
ブレンダン・コール

パンデミックで収益が激減し、運転資金が枯渇した企業は、社債をどんどん発行してきた。今年に入ってからの投資適格級の社債発行額は、既に2019年の1年分を上回っている。

だが発行ペースは鈍化している。金融情報サービスのリフィニティブによると、7月初め以降に米企業が債券市場で調達した資金は2590億ドル。6月の5290億ドルの半分にも満たない。

ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校のジェフ・フランク教授(経済学)は、今の危機を供給サイドの危機とみている。にもかかわらず米政府とFRBはとっさの対応として需要喚起策に走り、「甚だしい過剰投資」を助長してきたという。

成人1人当たり1200ドルの給付金や、従業員を雇用し続ける中小企業に支払われる給与補償の返済免除、FRBのジャンク債購入などだ。

「政府とFRBはパンデミックの初期段階で持てる手段を使い尽くした。FRBのバランスシートは既に4兆ドルから7兆ドルに膨張している。金融危機の全体を通じて増えた額に匹敵する大幅な膨張だ」と、フランクは言う。

腰を据えた支援策を

法律サービス会社エピックによれば、1月から6月までに連邦破産法11条の適用を申請した米企業は3604社で、年率にして26%増加した。資金繰りに苦しみつつ、何とか期限までに債務を返済しようとしている企業はその何十倍、何百倍にも上るだろう。

こうした未曾有の危機では、何百万人ものアメリカ人の生活は借り入れの期間が長いか短いかにかかっている。この状況では、民間の貸し手は個人向けにも企業向けにも融資しようとしない。既存の融資や信用供与枠も契約によっては借り換えが可能だろうが、新しく貸そうとはしないだろう。

「理にかなった政策は、資金を必要としている人や企業を助けることだ。民間の与信が事実上止まっている間、資金さえあれば将来的に成長できる会社が、つなぎ融資で資金不足を乗り越えられるようにすることだ」と、フランクは言う。「ただし、今回の資金不足は数カ月単位ではなく何年も続く可能性がある。短い融資では意味がない」

政府とFRBによる直接融資が最善の方法だと、フランクは言う。各企業への家賃支援も欠かせない。

「FRBが中小企業向けに開始した支援制度は、民間の銀行も融資に加わって一定のリスクを負う設計だが、報告によれば、この条件のせいでほとんど融資が行われていない」という。

FRBはまた、企業や地方自治体などより幅広い経済を対象とした2兆3000億ドル規模の緊急資金供給策を発表。ジャンク債についても買い入れを行うことを決定した。7月28日にはスティーブン・ムニューシン財務長官が、企業や地方自治体、個人を対象とした融資の期限を、当初の9月30日から年末まで延長すると発表した。

だがフランクは、FRBによるジャンク債の買い入れが市場経済にひずみをもたらしていると指摘する。「問題は、今はリスクが計算できない点にある」

新型コロナウイルスの感染再拡大がどのような結果を招くかは未知数で、現在の株式市場と社債市場はまだ「第2波」の影響を織り込んでいない。

デービッド・ガリーは、もしも2度目のロックダウンに追い込まれれば、「多額の負債を抱える企業のキャッシュフローに壊滅的なダメージを与えるだろう」と語った。「数十、場合によっては数百もの企業が利払いの繰り延べや免除を求めたり、あるいは債務不履行(デフォルト)に陥る可能性もある」

【注目の記事】
ユヴァル・ノア・ハラリ×オードリー・タン対談(1/3)──「ピンクのマスクはカッコいい」、誰もがルールづくりに参画できる社会の到来
ユヴァル・ノア・ハラリ×オードリー・タン対談(3/3)──市民の力で新型コロナウイルスを克服した台湾モデルが世界に希望をもたらす
銀河系には36のエイリアン文明が存在する?
カナダで「童貞テロ」を初訴追──過激化した非モテ男の「インセル」思想とは

20200804issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年8月4日号(7月28日発売)は「ルポ新宿歌舞伎町 『夜の街』のリアル」特集。コロナでやり玉に挙がるホストクラブは本当に「けしからん」存在なのか――(ルポ執筆:石戸 諭) PLUS 押谷教授独占インタビュー「全国民PCRが感染の制御に役立たない理由」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中