最新記事

新型コロナウイルス

感染第1波で医療崩壊の悪夢を見たアメリカは、第2波を乗り切れるのか

“We Didn’t Know What We Know Now”

2020年7月22日(水)19時00分
アダム・ピョーレ

magw200722_coronavirus4.jpg

アメリカではマスクなどの強制に反発する人の抗議行動が増えている MARK MAKELA/GETTY IMAGES

しかし対応プロトコルの変更に踏み切った後、バナー大学病院では数週間にわたり、患者を一人も死なせずに済んだ(残念ながら、この記録は感染第2波の襲来で途絶えてしまったが)。抗凝固薬やステロイド剤が有効だった可能性は高い。

6月には英オックスフォード大学の研究チームが、重症者に対するステロイド剤投与の臨床試験の暫定結果を発表した。ステロイド剤(デキサメタゾン)を10日間にわたって投与した場合、致死率は35%も下がったという。

アリゾナだけではない。感染第2波の直撃を受けたテキサスやフロリダの病院に担ぎ込まれた患者たちも、この間に蓄積された多くの臨床知見の恩恵を受けている。

例えば抗マラリア薬のヒドロキシクロロキン(ドナルド・トランプが大々的に宣伝した薬だ)は新型コロナに効かず、むしろ危険なことが分かった。一方でギリアド・サイエンシズの抗ウイルス薬レムデシビルは、早期に投与すれば有効とされている。

回復した患者の血中に含まれる抗体を投与する「回復期血漿療法」がウイルスの撃退に役立つことも分かった。サイトカイン・ストームを抑えて免疫系のバランスを回復させる薬の臨床試験も、各地で進められている。

「最悪の事態」も予測

こうした知見は医師や病院のネットワークやツイッターや電話会議を通じて、幅広くシェアされている。だが、それだけで問題が解決できるわけではない。

重症患者の激増で医療システムが崩壊すれば、これらの有益な情報を生かすことも不可能になる。患者が病院の廊下で担架に乗せられたまま死亡したり、どうせ門前払いだと思って病院に来ない患者が増える状況になれば、世界にどれだけの知識があっても意味がない。

そして残念ながら、今のアメリカは3月から4月にかけてのニューヨークで起きた悪夢の光景を再び見ようとしている。アリゾナやカリフォルニア、テキサスやフロリダなどの州で患者が急増しているし、マスクの着用やソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保といった規制に反発する人が全国で増えている。公衆衛生当局は最悪の事態を予測している。

現にカリフォルニアやテキサス、イリノイなどでは一部の病院が満床になり、必要な人工呼吸器を確保できない可能性が伝えられている。「私たちは素晴らしい教訓を学んできたが」、とテキサスのメソジスト病院のロバータ・シュワーツは言う。「感染拡大を繰り返さない方法は学べなかった」

今の段階では、とにかく感染者の増加率を抑え込むのが最善の選択肢だ。ワクチンが早くできればいいが、ジョンズ・ホプキンズ大学公衆衛生大学院のジャスティン・レスラー准教授(疫学)によれば、それはどうみてもまだ何カ月か先のこと。「今はみんなが地道な努力を重ねている。それらが積み重なれば、やがては大きな成果が得られるだろう」と彼は言う。「しかし、『死に至る病』を『無視できる病』に変える特効薬など存在しない」

だから、ご用心。この状況で感染すると、助かる人も助からない。

<本誌2020年7月28日号掲載>

【関連記事】日本で医療崩壊は起きるのか? 欧米の事例とデータに基づき緊急提言
【関連記事】「恐怖の未来が見えた」NYの医師「医療崩壊」前夜を記す日記

【話題の記事】
全長7mの巨大ヘビが女性を丸のみ インドネシア、被害続発する事情とは
大丈夫かトランプ 大統領の精神状態を疑う声が噴出
「この貞淑な花嫁は......男だ」 イスラムの教え強いインドネシア、ベール越しのデートで初夜まで気付かず
「米コロナ致死率は世界最低」と繰り返すトランプの虚言癖

20200728issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年7月28日号(7月21日発売)は「コロナで変わる日本的経営」特集。永遠のテーマ「生産性の低さ」の原因は何か? 危機下で露呈した日本企業の成長を妨げる7大問題とは? 克服すべき課題と、その先にある復活への道筋を探る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

西欧の航空会社、中国他社より不利=エールフランスC

ビジネス

午前の日経平均は続伸し最高値、高市首相誕生への期待

ワールド

ブダペストでの米ロ会談、ハンガリーとの良好な関係背

ワールド

トランプ氏、中国との公正な貿易協定に期待 首脳会談
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 7
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    若者は「プーチンの死」を願う?...「白鳥よ踊れ」ロ…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中