最新記事

韓国

横領、虐待...「ナヌムの家」慰安婦被害者の施設で起こったこと

The House of Suspicion

2020年6月4日(木)11時30分
朴順梨(ライター)

番組では理事代表の僧侶がナヌムの家とは関係のない著書を寄付金から大量購入させたり、職員にクンジョル(ひれ伏す形の挨拶)を強要したりしていたことにも触れた。

「別の僧侶は出勤履歴がほとんどないのに、5年間で寄付金から約500万円の給与を受け取っていた。また施設長は勤務中に野球のテレビ観戦やネットショッピングなどの職務怠慢を幾度も働いてきた」と、矢嶋は言う。「施設長も事務長も慰安婦問題の専門家ではなく関心もない。その証拠に彼らが昇級し権力を得た09年頃から、福祉ビジネス計画と不動産投資のための資金確保が始まっていた」

矢嶋らは外部の有識者と共に対策委員会を結成し、法人解散や歴史の現場としての居住スペースの保存、寄付金は全て慰安婦被害者の福祉や慰安婦問題関連事業に使用することなどを求めている。

実はナヌムの家では10年にも、日本人研究員の村山一兵が運営側に問題点を訴えたことがある。しかし彼は同年末に解雇通知を受け、翌年3月に施設を追われた。

解雇直後に村山は、施設のインターンらと「ハルモニ(おばあさん)の人権問題改善要求書」を作成。看護体制の不十分さや、当時の職員がハルモニたちと向き合わないために入居者同士にいさかいが生じていることを支援団体に訴えた。だが「日本の右翼を利するだけ」などと言われ、耳を傾ける者は少なかった。

村山は意に反した解雇により、大切な場所や慰安婦被害者たちとのつながりを奪われ、慰安婦問題に向き合えなくなった自責の念に苦しめられてきたと振り返る。彼は今回、20年以上勤務してきた看護師が告発に名を連ねていたことで、事態がより深刻になっていたと知り驚いたそうだ。

かつてナヌムの家に滞在していた李容洙(イ・ヨンス)による、支援団体「日本軍性奴隷問題解決のための正義記憶連帯」(正義連)に対する告発と時期を同じくしたが、それは偶然だと矢嶋は話す。問題は10年以上続いてきたが、人手不足や運営側が自らを正すことを期待してきたことなどもあり、このタイミングになったのだと言う。

【参考記事】元慰安婦に告発された支援団体の「腐敗の構図」

善意の搾取、二次加害

「告発することで被害者支援運動を後退させる危惧はあったが、高齢者虐待や人権侵害を止め、居住スペースを保存するためにはこの手段しかなかった」とも矢嶋は語った。

現在は日本に帰国している村山はこう言う。

「被害者への福祉支援や慰安婦問題の歴史を伝えることが、ナヌムの家の本来の役割。ナヌムの家では5月26日に1人が亡くなり、韓国内の当事者は17人となった。残された時間は少ない。李ハルモニの訴えの中にも『私たちがいなくなったら慰安婦問題はどうなるのか』という切実な思いが込められていたと思う」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、明確な反対意見ある中で利下げ決定=10月F

ワールド

ゼレンスキー氏、トルコの和平仲介に期待 エルドアン

ワールド

EXCLUSIVE-米、ウクライナに領土割譲含む紛

ワールド

米政権のケロッグ特使、1月退任の意向 ウクライナ擁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 7
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 8
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中