最新記事

鉄道

世界最速の座から転落 「上海リニア」もはや無用の長物?

2020年6月3日(水)16時35分
さかい もとみ(在英ジャーナリスト) *東洋経済オンラインからの転載

では、時速300kmに減速したことでどのような影響が出ているのだろうか。

リニアは以前から早朝、夜間を中心に減速運転を行っており、もともと最高時速430kmでの走行は日中に限られていた。今回の300kmへの減速は2月初旬から実施されている。運行会社は理由を説明していないが、コロナ禍が深刻となるなか、航空機の運行が削減されるのに合わせて運行時間も短縮し、本数も間引きしている。

空港駅―龍陽路駅間の所要時間は、最高速度を時速300kmに抑えても延びるのはわずか1分程度だ。最高時速430km運転の場合は7分20秒が正式な所要時間とされているが、15~20分間隔で走る乗り物が1分くらい遅くなったところで大勢には影響がない。むしろ環境負荷や設備の維持などを考えると、減速運転も悪くない選択と思われる。

すでに全長3万km近い高速鉄道網が整備された中国では、幹線ルートでは最高時速350kmでの走行を実現。時速300km運転の路線も少なくない。減速運転の実施で高速鉄道よりも遅くなったリニアは、実用性以外に「地面での飛行体験」を楽しむ観光資源としての魅力も半減してしまっている。

現地の鉄道関連メディア「鉄道視界」の関係者が、このタイミングでの減速運転実施について運行会社に尋ねたところ、「コロナ禍で乗客が減っているので、スピードを落とし、運行本数の調整をしている」と回答を受けたという。需要の回復を待って、430km走行復活への含みもあったという。

reuters__20200602131038.jpg

龍陽路駅のチケット売り場。コロナ後にこのようなにぎわいは戻るだろうか=2018年6月(筆者撮影)

一方で「国産リニア」開発も進む

一方で、中国は「国産リニア」の開発を進めている。山東省青島市にある車両メーカー、中国中車青島四方機車(中車四方)は2019年5月、自社製造のリニアモーターカーのモックアップを公開。以前リニア延伸計画があった杭州にもこれを持ち込み、市民の参観に供したという。

同社は2018年秋、世界最大級の鉄道展示会「イノトランス」にカーボンファイバー製の地下鉄車両を展示して来場者の注目を集めたが、一方でリニアモーターカーの開発も進めていたわけだ。

そうしたなか、杭州市が位置する浙江省は今年4月中旬、上海と杭州・寧波を結ぶリニア路線を新たに建設したいとの構想を打ち出した。ここへ中車四方製のリニアを導入する可能性が高く、地元では「時速600kmで2都市を結べば所要時間20分」と話題を呼んでいる。中車四方は今年中にも国産リニアのプロトタイプを完成させ、来年中には試験走行を始めたいとも述べている。

計画が実行されれば、日本のリニア中央新幹線全線開業より先に完成してしまう可能性もなくはない。約10年で世界最大の高速鉄道網を建設した中国は、都市間を結ぶ高速リニアでも先陣を切ることになるのだろうか。そしてその際、現在の上海リニアが新線の一部として取り込まれることになるかどうかも気になるところだ。

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
toyokeizai_logo200.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米連邦航空局、MD-11の運航禁止 UPS機墜落事

ワールド

アングル:アマゾン熱帯雨林は生き残れるか、「人工干

ワールド

アングル:欧州最大のギャンブル市場イタリア、税収増

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 10
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中