最新記事

検証:日本モデル

西浦×國井 対談「日本のコロナ対策は過剰だったのか」

MATH AND EPIDEMICS

2020年6月2日(火)06時35分
小暮聡子(本誌記者)

スイス・ジュネーブ在住の國井(左上)と西浦(背景は写真)がZoomで対談(5月26日)

<専門家会議に対する批判の声を受け、世界的に活躍する感染症学者、西浦博・北海道大学教授と國井修・グローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)戦略投資効果局長が緊急対談。日本の対策の根拠と課題とは? 本誌「検証:日本モデル」特集より>

日本の新型コロナウイルス対策は過剰だったのか。本誌は、数理モデルを用いて対策に当たった北海道大学教授の西浦博と、感染症対策の第一人者でスイス在住の國井修(グローバルファンド〔世界エイズ・結核・マラリア対策基金〕戦略投資効果局長)に対談を依頼した。2人の専門家が語る、日本が取った対策の根拠と今後に向けた課題とは。(対談は5月26日。聞き手は本誌編集部・小暮聡子)

◇ ◇ ◇

國井 私が従事しているエイズ、結核、マラリア対策でもモデリングをよく使う。だがそれはツール(手段)であって、目的ではない。感染症流行の現状および将来予測、資源の適正化・配分、目標の設定などによく使うが、モデルは完璧でなく限界があるという前提で使用している。
20200609issue_cover200.jpg
西浦 数理モデルは1980年代後半のHIV流行を受けて90年代に理論の現実への実装が飛躍的に発展し、2000年代以降は技術的にコンピューターも速くなり、定量性が格段に上がった。観察データと重ね合わせ、ある程度真実を捉えられるようになってきた。新型コロナウイルスについては、各国で疫学的な分析やモデルで「急所」を確実に捉えることができておらず、道筋が見えていない。だから、イギリスとスウェーデンで方針が全く違ってしまった。

日本ではクラスターを急所とみて対策してきた。私たちモデラーは、リスク評価についてはアンダーリアクト(控えめに言う)よりは、オーバーリアクト(大げさに言う)して話をすべきと、肝に銘じながらやってきた。そして今、あなたはオーバーリアクトだったじゃないか、という批判も来ている。それは健全なプロセスだ。ではこのあとどうしようかというのを、改めてテーブルの上で議論すべきだと思う。

國井 オーバーリアクトについて聞きたいのだが、日本の方々からの批判の中に、ゴールデンウイーク中の5月4日に緊急事態宣言を解除せずに延長したことが解せないという声があるようだ。この判断について西浦さんの考えは?

西浦 ゴールデンウイーク後に解除できるかどうかの判断は、感染者が社会全体の「接触削減」以外の対策で制御できる状態に収められているか否かに基づくものだ。解除するためには、接触が追跡できる状態に一回戻らないといけない。4月7日の緊急事態宣言よりもずいぶん前の3月上旬、接触者はほとんど追跡できていた。どのように広がっているのか、その時は多くが直接的に見えていた。だが、5月4日に先立つ評価としては、接触をほぼ追えるという状態には戻っていなかった。

加えて重要なことだが、感染者が一定数残るなかで解除すると、感染者数が再び増加しない保証は一切ない。むしろ、そのようなケースが韓国やドイツで見られている。緊急事態宣言下では社会全体で接触を削減できており、営業自粛によってハイリスクな場が閉鎖されていた。感染者数が減りつつあるので、十分に減るまで待とう、ということだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マグニフィセント7決算発表開始、テスラなど=今週の

ワールド

イスラエル首相「勝利まで戦う」、ハマスへの圧力強化

ワールド

対米関税交渉、日本が世界のモデルに 適切な時期に訪

ワールド

米イラン、核合意への枠組みづくり着手で合意 協議「
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 3
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投稿した写真が「嫌な予感しかしない」と話題
  • 4
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 5
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 6
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 7
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 8
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 9
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 10
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 9
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中