最新記事

中国

中国がWHOに送り込んだプロパガンダ宣伝マン

China’s Paid Mouthpiece in WHO

2020年5月28日(木)16時56分
ヒレル・ノイアー(NGO「国連ウォッチ」代表)

2018年の国連総会の準備会議で演説するチャウ LOEY FELIPE-UN PHOTO

<中国政府お墨付きのニュースキャスターが、流暢な英語を武器にWHO親善大使として中国の宣伝を堂々と発信中>

オンライン上で開催されたWHO(世界保健機関)の年次総会は5月19日に閉幕したが、WHOのテドロス・アダノム事務局長は今こそ世界に説明しなければならない。WHOの活動や課題を人々に知らせる重要な役目を負い、スポーツや芸術分野の著名な人物が起用される「親善大使」の1人に、なぜ中国政府お墨付きのニュースキャスターがいるのか。この人物はWHO親善大使の肩書を利用して、中国の新型コロナウイルス対策を模範的な取り組みのように見せ掛けている。

問題の大使ジェームズ・チャウは生まれも育ちもイギリス。2004年から北京に拠点を移し、中国の国営テレビ局・中国中央電視台(CCTV)の英語放送チャンネルでキャスターを務めてきた。

親善大使に就任したのは2016年2月。中国籍で中国政府と密接なつながりを持つ陳馮富珍(マーガレット・チャン)前WHO事務局長の指名による。親善大使の任期は2年だから、その後テドロスが2回任期を延長したことになる。

ケンブリッジの卒業生である彼がなぜ、全体主義国家に身売りし、流暢な英語を強みに世界中の視聴者に中国の主張を吹聴しているのか。その疑問に彼は答えようとしない。分かっているのは、彼がやっているのは正真正銘のプロパガンダだということだ。

チャウは現在、中国に関する報道に影響を及ぼすことを目指す民間の米中交流団体「太平洋国際交流基金会」が主宰する、ニュース動画サイト「チャイナ・カレント」のホストを務めている。

外交専門誌フォーリン・ポリシーによると、チャウの後ろ盾に「資金を提供している中国政府の高官」がいて、この人物は統一戦線工作部と呼ばれる対外宣伝活動を担う中国共産党内の組織と密接な結び付きがある、という。世界屈指の抑圧国家の宣伝マンというだけでも、国連機関の代表となる資格はない。だが、チャウの罪はもっと重い。

巧妙に論点をずらす

ニューヨーク・タイムズ紙の報道によれば、チャウは自身がキャスターを務める番組で、中国人の個人情報を不正入手し、売却したとして2013年に中国で逮捕されたイギリス人調査員ピーター・ハンフリーの「自白」を放映した。だが実際には、ハンフリーは薬を飲まされ、椅子に鎖でつながれた状態で、取調官が書いた自白文を読み上げるよう当局に強要されたのだ。

そんなチャウが、パンデミック(世界的大流行)が勃発するや、親善大使の肩書を利用して、ツイッターや微ウェイボー博、YouTubeなどで中国の対応を美化し、中国の現体制と指導層を正当化するメッセージを流し始めたのは驚くに当たらない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中