最新記事

リモートワークの理想と現実

リモートワーク「先進国」アメリカからの最新報告──このまま普及か、オフィスに戻るか

WORK FROM HOME NATION

2020年5月16日(土)13時30分
ケリー・アン・レンズリ(ジャーナリスト)

在宅勤務ではきちんと連絡を取り合い、その内容を記録して上司や同僚に状況が分かるようにする必要があるが、それが会議への過剰な依存につながる場合もある(会議が多いと生産性が上がっているような幻想を抱いてしまいがちだ)。ビデオ会議システムのアウル・ラブス社の昨年の調査では、週に11回以上の会議に出席している人はオフィスワーカーの3%にすぎないが、リモートワーカーでは14%に上るという。

ともあれ、必要なツールがなければ生産性を上げるのは難しい。全ての在宅ワーカーが恵まれた条件の下で働いているわけではなく、必要なテクノロジーを導入していない企業では在宅勤務への移行に二の足を踏むところもあるかもしれない。G&Sによれば、在宅勤務を始めたアメリカ人の40%が、電話やノートパソコンなどの技術面での準備が大きな課題だったと答えている。

ニューヨークでインターネットを使った不動産仲介サービスを展開するスクエアフット社では、3月13日に在宅勤務を義務化する前から推奨していた。「それでも開発者の中には出社する人もいた」と、同社の幹部エンジニアであるダグ・タブチは言う。家ではなかなか思いどおりの仕事環境を構築できないからだ。

magSR200515_RW5.jpg

子供と自宅で過ごしながら仕事をする風景も CHESNOT/GETTY IMAGES

一つ一つは小さなことでも積み重なれば大きくなる。例えばオフィスでは2台のモニターを使っているのに家にはないし、打ち合わせの時はワイヤレスイヤホンを使う。そのせいで「作業量にも影響が出ている」とタブチは言う(ちなみに彼は、妻と生後2カ月の赤ん坊と小さなアパートで暮らしている)。

ボストンのソフトウエア会社ブルホーンでは、以前から1200人の従業員のうち約20%がリモートワーカーだった。それでもアート・パパスCEOは、生産性への悪影響を懸念している。直接会ったほうが簡単に終わる業務が少なくないからだ。「最大の問題は、直接会う会議よりもビデオ会議のほうが消耗するということだ。いつもとは違うレベルの集中力が求められ、注意を向けるのも難しい」と彼は言う。

だが従業員たちは適応していくだろうとも彼は考えている。

「いかなる技術もそうだが、リモートワークに慣れるのにも時間がかかるだろう」

それに、大きな利点もある。「2時間も交通渋滞につかまったりすることもないし」

利点は多いが孤独はつらい

magSR200515_RW7.jpg

トレーニングもジムには行かず自宅でやることに CARLOSALVAREZ/GETTY IMAGES

そうした利点が評価されれば、リモートワークは企業にとって人材集めの切り札にもなり得る。コンサルティング会社ワークプレース・インテリジェンスのダン・ショーベルは言う。「勤務体系がフレキシブルかどうかは職探しの重要な基準になってきている。今回、みんながその利点を味わったわけで、(そうした職への)需要はさらに高まるはずだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エヌビディア、新興AI半導体が技術供与 推論分野強

ワールド

ホンジュラス大統領選、トランプ氏支持のアスフラ氏勝

ワールド

北朝鮮の金総書記、24日に長距離ミサイルの試射を監

ビジネス

訂正米アップルCEOがナイキ株の保有倍増、再建策を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中