最新記事

感染症対策

いまだに新型コロナ検査が脆弱な日本 「抑え込み成功」は運が良かっただけ?

2020年5月29日(金)15時57分

人口1000人当たりの日本の検査数は、経済協力開発機構(OECD)加盟国37国のなかでメキシコに次いで2番目に少ない。写真はPCR検査のシミュレーションをする医療関係者。4月22日、東京都江戸川区で撮影(2020年 ロイター/Issei Kato)

4月初めに発熱で寝込んだ三段目力士の勝武士さんは、新型コロナウイルスのPCR検査をなかなか受けることができなかった。師匠は保健所に電話をかけ続けたものの、ずっと話し中でつながらなかった。

そのころ東京都内の病院は、急増する新型コロナ患者で一杯だった。受け入れ先は4日間見つからず、日本相撲協会によると、ようやく入院できたのは血痰混じりの咳が出るようになっていた4月8日だった。そして5月13日、勝武士さんは28歳の若さで亡くなった。

感染拡大を封じ込めるには広範な検査が欠かせない──多くの専門家がそう警鐘を鳴らす中で起きた勝武士さんの死は、日本の検査数の少なさ、保健所に依存する検査体制に対して議論を呼んだ。

日本は5月25日に緊急事態宣言をすべて解除し、経済活動を再開し始めた。そのパンデミック対応は、「不可思議な成功」と称えられている。全世界で死者が30万人を超えるなかで、日本は感染者数1万6000人、うち死者は約800人にとどまっている。

だが同時に、人口1000人当たりの日本の検査数は、経済協力開発機構(OECD)加盟国37国のなかでメキシコに次いで2番目に少ない。

英オックスフォード大学のデータによると、5月20日時点で日本が実施した検査件数は人口1000人当たり3.4件。イタリアの52.5件、米国の39件に比べ、はるかに少ない。韓国では人口1000人あたり15件検査をしている。

ロイターは公衆衛生の当局者、医師、専門家など10人以上に取材。彼らの多くは、検査体制の拡充の遅れが日本の感染実態を覆い隠しており、再び感染が拡大した場合に国民が脆弱な立場に置かれかねないと懸念を示した。

厚労省の既得権益や官僚主義が保健所の検査を停滞させ、民間機関による検査を許可するのに時間がかかりすぎたとの批判も聞かれた。

沖縄県浦添市にある群星沖縄臨床研修センターの徳田安春センター長は、「確かに発表されている感染者数、死亡者数は少ない。ただそれは、検査が抑制された中での数なので、かなりの漏れがある」と言う。

日本政府が設置した専門家会議の尾身茂副座長も衆議院予算委員会で、「(実際の感染者が)10倍か15倍か、20倍かというのは誰にも分からない」と語った。専門家会議は政府に対し、軽症者も含めた検査体制の拡充を急ぐよう求めてきた。

厚労省によると、保健所の負担を軽減するため民間検査機関の活用を増やしているという。

「PCR検査を必要な時に、必要な人にやるべきだというスタンスは最初から一貫していた。ずっと、検査キャパシティを拡充してきている」と、厚生労働省結核感染症課の加藤拓馬課長補佐は語る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米FRB議長人選、候補に「驚くべき名前も」=トラン

ワールド

サウジ、米に6000億ドル投資へ 米はF35戦闘機

ビジネス

再送米経済「対応困難な均衡状態」、今後の指標に方向

ビジネス

再送MSとエヌビディアが戦略提携、アンソロピックに
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中