アメリカの無関心が招いた中国のWHO支配
How America Ceded the WHO to China
結局、オバマ政権は8年間で16回も中国をWTOに提訴しているが、損害は取り戻せなかった。最後の提訴は任期切れ直前の2017年1月で、中国の違法な補助金でアルミニウムの国際価格が不当に低く抑えられているという訴えだったが、既に米国内のアルミ精錬業者は(オバマ政権の誕生した)2009年時点の14社からわずか5社に減っていた。
ブッシュ政権同様、オバマも中国に対する「戦略的な関与」の政策を維持した。そして結果的に、WHOなどの国際機関における中国の影響力拡大を許した。多くの国際機関に取り込めば、いずれは中国も「責任あるグローバルな利害共有者」になると信じたからだ。
行き過ぎた「善意の無視」
アメリカとその同盟諸国は、中国人(あるいはテドロスのような中国の盟友)がWHOや国際民間航空機関、国際電気通信連合や国連食糧農業機関などのトップに就くことも受け入れた。どうせ「大した害はない」と思えたからだ。
それが「甘かった」と指摘するのは、スタンフォード大学公共政策プログラムのランヒー・チェン講師だ。しかし元職を含む政府部内の関係者からは、甘いどころではなかったとの声も聞こえる。例えば元国防総省の中国担当者ジョセフ・ボスコは、WHOを含む国連の専門機関で中国の影響力が増大したのは「わが国の後押しがあった」からだと明言している。
しかしアメリカの指導層が抱いたチャイナ・ドリームは、習近平(シー・チンピン)が国家主席になるとしぼみ始めた。中国も遠からず民主主義を受け入れるはずだという願望は、徐々に「悪い冗談」としか思えなくなってきた。
そこへ来たのが第2の、つまり今回のチャイナ・ショックだ。それは中国の将来に関するアメリカや同盟諸国の思い込みが、いかに大きな代償を伴うかを示している。
中国の推す候補がWHOを牛耳っても「大した害はない」という想定が致命的な誤りだったのは間違いない。WHOが中国にウイルスのサンプルを速やかに提出させていれば、そして中国が昨年末の段階で「もっと率直に事実を公表していれば、これほどの世界的な危機は避けられたかもしれない」(元FDA長官のゴットリーブ)からだ。
過ぎたことの取り返しはつかないが、外交面の攻防はこれからだ。アメリカの資金が途絶えるのは、たとえ一時的であってもWHOには痛い。アメリカの拠出額は全体の22%を占め、中国の2倍以上だ。ゲイツ財団などの慈善団体や製薬会社による寄付金も加えれば、アメリカの貢献度は中国の10倍近くになる。
事態が改善されれば拠出を再開する(つまりWHOからの脱退はしない)との前提に立つ限り、議会が資金拠出に一定の条件を付すのは賢明な選択だと、スタンフォード大学のチェンは考える。公衆衛生の当局者も言うように、まずは透明性を一段と高めてもらわないと困る。