アメリカの無関心が招いた中国のWHO支配
How America Ceded the WHO to China
パンデミック(感染症の世界的な蔓延)の真っ最中に、世界の公衆衛生を仕切る国際機関への資金を断つというのだから、この決定には賛否両論があっていい。しかしWHOにも、この疑問にだけは答える義務がある。いったいいつ、ヒト・ヒト感染の事実を把握したのか?
昨年12月31日、台湾政府はWHOに対し、中国の武漢で発生した未知の感染症のSARSとの関連などについて問い合わせていた。SARSも中国発のコロナウイルス感染症で、やはりヒト・ヒト感染するが、中国側は当初、その事実を隠していた(ちなみに台湾を自国の領土と見なす中国政府は台湾をWHOから排除している)。
だが忘れてならないのは、中国がWHOに対して大きな影響力を持つようになる過程でアメリカ(とその同盟諸国)が果たした役割だ。実を言えば、今回のコロナ危機は今世紀に入ってからアメリカを含む世界の先進諸国を襲った2度目の「チャイナ・ショック」だ。
第1のショックは、2001年にアメリカの後押しで実現した中国のWTO(世界貿易機関)加盟によってもたらされた。2016年に発表された全米経済研究所の報告の文言を借りれば、それは「世界貿易のパターンにおける画期的な変化」だった。
どの業種でも(製薬や医療機器をも含むと今回世界は思い知らされたが)、アメリカの有力企業は製造拠点を中国へ移すようになった。安い労働力がいくらでも手に入ったからだ。それでアメリカの産業は空洞化し、伝統的な工業地帯ではいくつもの町が地獄を見ることになった。
政治家も経済界の有力者も、この勝負に懸けていた。今よりもっと豊かになれば中国も強権的な統治スタイルを緩め、いずれは韓国や台湾のように民主主義を受け入れるはずであり、そのためならアメリカの労働者に一定の犠牲を強いるのもやむを得ない。彼らはそう考えた。
ビル・クリントンからバラク・オバマに至る歴代米政権の対中政策は基本的に、そうした願望に基づいていた。2000年、クリントンは中国に最恵国待遇を付与する「恒久的通常通商関係法案」を成立させ、中国のWTO加盟に道を開いた。その翌年、中国はWTO加盟を果たし、奇跡の経済成長へ突き進むことになった。
アメリカの対中戦略は、オバマ政権になってからも変わらなかった。オバマが対中関係で優先的に取り組んだのは、気候変動の問題だった。いわゆるパリ協定を実のあるものにするためには、世界最大のCO2排出国となった中国の関与が不可欠だった。そして2016年3月31日、オバマの願いはかない、米中両国は共同声明でパリ協定への参加を表明した。
だがベン・ローズ国家安全保障担当顧問(当時)など複数の側近筋によれば、2期目に入るとオバマの対中感情は悪化した。知的財産権の侵害を含む貿易上の課題について、中国はアメリカとの約束をほとんど守っていなかったからだ。