最新記事

動物

新型コロナ都市封鎖が生み出す、動物たちの新世界

Animals Liberated by Pandemic?

2020年4月24日(金)18時00分
ラッセル・ジェイコブズ

動物たちは容赦ない食物連鎖と不思議な共生の世界に生きている。都会のネズミは野良猫などに食われる運命だが、ある日ネズミが急に姿を消したら、今度は野良猫がうろたえる。そして、生き延びるために行動パターンを変えることになる。

こうして、たった1つの小さな変化が無数の連鎖反応を引き起こす。例えば、オジロジカの個体数が急に増えると、背の低い植物や苗木を食べ尽くしてしまい、森林の下層植生を荒廃させる可能性がある。自動車との衝突事故が減ったことによるわずかな個体数の増加でさえ、森の植生に深刻かつ長期的な打撃を与えかねない。

でも、考え違いをしないでほしい。私たちが何カ月か家に籠もったくらいで、人類が産業革命以来の長い年月をかけて痛めつけてきた自然のシステムが一度に「癒やされる」ことはあり得ない。

人間の行動が野生生物の世界に及ぼした傷は深く、広範囲に及ぶ。その影響は、人間の存在が動物の行動範囲を狭めるとか、人間の出すごみが動物の餌になるといった話だけではない。

筆者が2年前に初めて会ったときのパーキンスは、オーデュボン協会のプログラム「プロジェクト・セーフ・フライト」でボランティア活動家の育成に携わっていた。ニューヨークに林立する高層ビルの窓にぶつかる鳥たちを観察し、記録する活動だ。

パーキンスによれば、飛んでいるときの鳥は周辺の物体との距離を瞬時に判別して進路を決めているが、ビルの大きな窓ガラスに青い空や木立が映っていると、誤ってそこに飛び込んでしまう。

その結果、ニューヨーク市内では年に9万〜23万羽の鳥が衝突死している。いくら人間が外出を控えても、こうした衝突死は減らない。現にパーキンスは私が取材した翌日、セントラルパークの近くで窓に激突して死んだという野鳥の写真を送ってきた。

しばらく前の私なら、死んだ鳥の写真なんて目を背けたくなったに違いない。でも今は、なんだか心が安らぐ。それは人間たちのパニックをよそに、動物たちがこれまでどおり行動している証拠だから。そう言えば、今は渡りの季節。冬を越した鳥たちは繁殖地へと飛び立っていく。

私たちが外出しなくなったのはウイルスが怖いからであり、学者や政府からの指示を聞いたからだ。でも動物の世界には、新聞もないし疫学者もいない。だから、平気でいつもの暮らしを続けている。

本当は野生動物にもウイルスの脅威が迫っている(既に感染例は報告されている)。しかし、彼らは何も知らない。私たちは公衆衛生当局や政治家からの情報で行動を決めるが、動物たちは本能に従って動くだけだ。人の姿が消えた環境に適応できても、いずれ人が戻ってくることまでは理解できない。

野生のタカと濃厚接触

人も車もいない都会は動物たちの楽園かもしれないが、再び人間や車が戻ってきたとき、彼らの天下が続く保証はどこにもない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

BRICS首脳会議、ガザ・イランへの攻撃非難 世界

ビジネス

日産、台湾・鴻海と追浜工場の共同利用を協議 EV生

ワールド

マスク氏新党結成「ばかげている」、トランプ氏が一蹴

ワールド

米、複数の通商合意に近づく 近日発表へ=ベセント財
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中