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ウイルス発生源、欧米学者が突然変異説:武漢発生源という証拠なし?

2020年4月16日(木)11時10分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

現象論的に言えば、武漢がコロナ「肺炎」の発祥地であることは確かだ。これは否めない事実だろう。

台湾が今般のコロナ肺炎を「武漢肺炎」と呼んでいるのは現象論的には正しい。

ただし、そのウイルスがどこから来たのかを究明するのは、まさに「人類はどこから来たのか」を究明するのに近いくらい困難を極める。

だからこそ、ピーターたちは人類起源をたどるのと同じ種類の「系統樹」を作成すべく、コンピュータ・シミュレーションを行ったのだろう。

ピーター論文は前掲のコラム「新型コロナ日本感染ルーツとウイルスの種類:中国のゲノム分析から」でご紹介した論文と、それほど大きな差異はないが、しかし「中国のゲノム分析」の方は中国人研究者の研究成果であるのに対して、ピーター論文はイギリスやアメリカあるいはドイツの研究者の論文であり、しかもアメリカの権威あるPNASに掲載された論文だ。

それが中国に「一見、有利」と思われるようなことを書いてくれているので、中国が飛びつかないはずがない。

4月13日の中央テレビ局CCTVは、大々的なインタビュー報道を展開している。報道のタイトルには「新型コロナウイルスの起源が武漢にあるという証拠はない」とある。

CCTVはひたすら「ウイルスの発生源は武漢ではない。したがって新型コロナウイルス肺炎の責任も中国にはない」という方向に持って行こうとしている。中国はアメリカ人が最初にコウモリ起源のA型ウイルスを持っていて、それを武漢でB型ウイルスとして感染拡大させたという解釈のみを大きく取り上げ、大喜びしている。

しかしピーター論文を精査すれば、そのアメリカ人も武漢にいなければA型ウイルスに感染しなかったはずで、「武漢A型」として考察している。

「習近平の罪」に変わりはない

ウイルスの起源がどうであれ、習近平が「武漢肺炎」を全世界に蔓延させてしまった事実に変わりはない。1月31日のコラム「習近平とWHO事務局長の「仲」が人類に危機をもたらす」に書いた通り、人類を破滅の危機に追いやっているのは習近平であり、テドロス事務局長だ。その罪は必ず糾弾されるべきで、習近平はその罪から逃れることはできない。

ただ、ピーター論文が救いとなるのは、この突然変異種の遺伝子配列の研究をさらに進めることによって、配列タイプに応じた最適の治療方法を見つけることができるかもしれないし、また感染第二波が来ないようにワクチンなどの開発にも役立つのではないかと思うのである。

専門家の方たちには心から期待している。

(本コラムは中国問題グローバル研究所からの転載である。)

Endo_Tahara_book.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(11月9日出版、毎日新聞出版 )『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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