最新記事

ベビーブーマー

ミレニアル世代に知ってほしいベビーブーム世代の功績

OK, Millennials

2020年4月10日(金)16時15分
サム・ヒル(作家、コンサルタント)

テクノロジーの進化を加速させたのも、ブレーキをかけたのも、私たちベビーブーム世代だ。世界を救うほど強力なテクノロジーは、世界を破壊するほど強力であることを、私たちは理解した。

だから私たちはテクノロジーに懐疑的になった。自然でオーガニックな製品を推進して、X線や放射線の使用を抑制し、化学物質に規制を加えた。個人情報保護の厳しい規制を求め、人工知能(AI)と遺伝子工学を警戒する人も少なくない。

私たちのテクノロジー懐疑論は、行き過ぎるときも確かにある。だが、被害妄想になるのも理由がないわけではない。1938年に靴店では、X線撮影装置を使い子供の足のサイズを測っていた。

テクノロジーは素晴らしいけれど危険でもある。核、化学物質、遺伝子組み換え......テクノロジーは既に、世界を破壊していたかもしれない。

しかし、そうはならなかった。私たちがそうさせなかったのだ。

世界情勢

確かに今も、世界の多くの国々はアメリカや欧州に比べ、経済発展や人権の点では遅れている。それでも世界全体で見ると、1969年当時に比べた状況は大きく改善している。オックスフォード大学の研究者らが運営している世界の変化をデータで読み解くウェブサイト「アワ・ワールド・イン・データ」を見ても、それは明らかだ。

例えば人口10万人当たりの感染症による死者数は1969年には449人だったが、現在では69%減の140人だ。1960年代の10年間で戦争により命を落とした人は100万人近かったが、直近の10年間では約56万7000人。世界の総人口は倍増したのに、死者数は半分に減ったわけだ。

特に大きな進歩があったのは貧困や飢餓の問題だろう。国連が定義する極度の貧困状態で生活している人の割合は、1969年には世界の総人口の36%だったが、今では8%だ。餓死する人の数も、1969年には1日平均4600人だったのが、今では(人口は増えたのに)その5分の1だ。

また国家制度を見ても、1960年代に最も多かったのは独裁制で、119カ国だった。一方で、当時36カ国しかなかった民主国家は現在では99カ国に増えた。

もちろん、これらのデータはあくまでも全体像を示す平均値。それが改善されたところで、シリアや中央アメリカや南スーダンの人々にとっては何の慰めにもならない。また、今の世界があるべき完璧な姿だというわけでもない。環境汚染のように解決に至っていない問題もあれば、人権問題のようにある程度改善したものの、また悪化している問題もある。AIやプライバシーの侵害といった新しい問題も出てきた。

とは言っても、これまでの進歩の積み重ねの価値は認めなければならない。背負わされた課題は世代ごとに異なる。私たちの前の世代は専制政治の問題に取り組んだ。私たちは社会を変えた。ミレニアル世代はまた別の問題を解決するはずだ。

ミレニアル世代への最後のアドバイスは「目標は高く持て」だ。私たちの世代は他の人たちを助けることが変革への情熱となった。公民権運動に南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)、バングラデシュなどの飢餓問題──。ライブ・エイドのような慈善コンサートで何百万もの人々を救えるなんて甘っちょろい考えだと言われればそのとおり。でも、それは善意に根差していた。私たちの世代は結果につなげるという面では失敗したかもしれないが、高い志を持っていたのは間違いない。

取り組まなければならない問題の大きさにおじけづくこともあるだろう。それでも手をこまぬいていてはまずいことになる。でもきっと、ミレニアル世代は何かをやり遂げてくれるはずだ。幸運を祈る。

<本誌2020年4月14日号掲載>

【参考記事】今の資本主義には規律も公平さもない、若者たちが憤るのは当然だ
【参考記事】アメリカのミレニアル世代がいっこうに大人になれない裏事情

20200414issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月14日号(4月7日発売)は「ルポ五輪延期」特集。IOC、日本政府、東京都の「権謀術数と打算」を追う。PLUS 陸上サニブラウンの本音/デーブ・スペクター五輪斬り/「五輪特需景気」消滅?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ソマリランドを初の独立国家として正式承

ワールド

ベネズエラ、大統領選の抗議活動後に拘束の99人釈放

ワールド

ゼレンスキー氏、和平案巡り国民投票実施の用意 ロシ

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 8
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中