最新記事

ベビーブーマー

ミレニアル世代に知ってほしいベビーブーム世代の功績

OK, Millennials

2020年4月10日(金)16時15分
サム・ヒル(作家、コンサルタント)

経済的な豊かさ

ミレニアル世代が所得格差の拡大に怒るのは当然だが、見逃している事実がある。富裕層との差は広がっているにせよ、庶民の暮らし向きも50年前に比べれば良くなっていることだ。1969年の世帯平均所得は今の貨幣価値に換算して約6万4000ドル。今では共働き世帯が増えたこともあり9万ドルに上る。しかも世帯人数は1969年より少なく、1人当たり所得は約50%も増えたことになる。

税負担は1969年と比べ大幅に軽減されているし、物価も全体としては下がった。医療費と教育費は例外的に高騰しているものの、多くの日用品は大幅に値下がりしている。ニューヨークとロンドンの往復の航空運賃は1969年も今もほぼ同じ550ドルほどだが、貨幣価値を考えれば1969年には実質的に3700ドルを超えていた。当時は一番安いカラーテレビが今の貨幣価値では3000ドルで、3世帯に1台程度しか普及していなかった。

一番分かりやすいのは電話だ。米連邦通信委員会の1969年のデータを見ると、通話料は場所、距離、時間帯、企業か個人かで異なるが、当時の平均的な10分間の通話が今の貨幣価値に換算すると約15ドルにも上る。距離が数キロ以上離れるとそれより大幅に高くなる。

今の平均的な市民は1日約3時間電話を使っている(通話以外の通信やインターネット利用も含む)。1969年の料金設定なら、何と毎月8000ドルも徴収されることになる。

安全な暮らし

ピュー・リサーチセンターによれば、アメリカ人の多くは世の中が年々、危険の度を増しているとの印象を持っているという。だが実際は逆で、FBIによればアメリカ社会は以前より安全になっている。1969年には人口100万人当たり70人が殺人で命を落としたが、今では50人だ。

一方で強姦の発生率は上昇しており、人口100万人につき420件と2倍以上の増加だ。もっともこれには理由がある。1969年当時、顔見知りによる犯行のうち、通報されたのは全体の3分の1に満たなかった。だが現在では、その割合は2倍以上に増えている。また#MeToo運動など社会の変化により、被害者が性暴力を犯罪として認識しやすくなったのかもしれないと、全米性犯罪リソースセンターは指摘している。

暴力犯罪よりも恐ろしいのが自動車で、自動車事故で死ぬ確率は殺人事件で死ぬ確率の4倍ともいわれる。だが自動車事故での死者数も、1969年の5万人超から2018年には3万6560人へと大きく減少。走行距離1000キロ当たりでは0.6人から0.2人に減った。道路整備と車の安全性の向上、そしてシートベルト着用の義務化が理由だ。

健康と寿命

アメリカ人の平均寿命は現在約79歳。1969年当時からは8年延びている。理由の1つは喫煙者の減少で、当時は人口の約40%が喫煙していたが、現在は15%に減っている。

もう1つの理由は医療の進歩だ。ポリオなど、ベビーブーム世代が子供の頃に苦しんだ病気の多くは、ワクチンが開発されて過去の病気になった。癌患者の5年生存率は、50.3%から67%にまで改善している。

生活の質も、ほぼ間違いなく向上した。ライフスタイルと栄養状態が改善したおかげだ。ミレニアル世代には信じられないかもしれないが、50年前に健康維持を気にする人は、ごく一部だった。ジョギングブームが起こったのは1970年代初め。スポーツクラブが一般的になったのは1980年代以降だ。

1966年に全米の学校で体力・運動能力テストが導入され、私たちは校庭を何周も走り、ソフトボールを投げた。こうしてベビーブーム世代は健康的な習慣が身に付いた。

一方、人生が8年延びて、医療コストは高騰している。医療ケアの需要は高齢者に偏っており、GDPに占める医療費の割合は1970年の6.9%から現在は17.8%に達している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは155円前半、一時9カ月半ぶり高値

ワールド

被造物は「悲鳴」、ローマ教皇がCOP30で温暖化対

ワールド

サマーズ氏、公的活動から退くと表明 「エプスタイン

ワールド

米シャーロットの移民摘発、2日間で130人以上拘束
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中