緊急事態宣言と経済対策──想定を超えるスピードに政策は追いつけるか
そもそも日本は、2018年の暮れから景気後退に入っている可能性が高い。昨年10月に実施された消費税率の引き上げによる影響があったところに、コロナショックが追い打ちをかけた。インバウンド関連以外にも、本格的な影響が広がったのは3月以降である。少しずつ3月分の経済指標や企業の月次実績が公表されつつあるが、大幅な悪化、落ち込みも散見される。事態の急速な悪化が懸念される中、感染拡大防止とセーフティネット構築を急がねばならない。国家財政が厳しい中で、最小限の規模で本当に困っている先に、効率的な支援を実施すべきだという考えもあるが、生活保障の支援対象など、制度設計の詳細に拘り過ぎるとスピード感が失われてしまう。少しでも早く困っている人や企業に支援が届くように、迅速な対応が求められている。どのような支援を受けることができるのか、どのような手続きが必要になるのか、認知・把握できていない個人や中小企業なども多いだろう。分かりやすい広報や相談窓口の充実にも期待したい。
2つ目の懸念は、「これで十分なのか」という点である。イタリアやスペイン、米国では爆発的に感染が拡大し、自宅待機要請や店舗の休業要請など厳格なウイルス封じ込め策が続いており、ウイルスとの戦いが長期戦に突入している。日本は爆発的な感染の「瀬戸際」にあり、「ぎりぎり持ちこたえている状況」とも指摘される。杞憂に終われば良いが、日本の現状は、まだ序盤戦に過ぎないと見るべきだろう。多くの人や企業が、いつ終わるとも知れない不安や不確実性に直面している。収入が大きく減少して生活に苦しむ世帯にとってみれば、この先、二度目や三度目の現金給付があるのか気になるところだ。事業継続の瀬戸際にある中小企業にとってみても、今回の緊急支援措置で乗り切れるのか、不安は消えない。政府は、今後の対策に向けた十二分の備えとして、これまでを上回る規模の予備費を創設するという。事態が長期化し、さらに悪化した場合には、二の矢、三の矢を躊躇なく打ち放つというぶれない姿勢を見せる必要がある。営業自粛を要請されて、生活できないという事業主もいると見られる。休業を余儀なくされる事業主への補償も、避けては通れない議論となるだろう。
いつ感染拡大が収束するのか、どこまで影響が拡大するのか、誰もが先を見通せない状況にある。その不確実性の強さゆえに社会不安が増幅している。このような時こそ、政府の役割が重要だ。先行きが見通せない中だからこそ、少しでも「安心」を与えられるかどうかがカギになる。「先手を打つ迅速さ」、「十分な規模感」をもってすることが危機対応の鉄則だ。後に振り返って、余分な対策だったと言われるかもしれないが、後手に回って不十分な対策しか打てず、社会経済に壊滅的な影響が出てしまってからでは、取り返しがつかない。まさに、今が正念場だ。
[執筆者]
矢嶋 康次 (やじま やすひで)
ニッセイ基礎研究所
総合政策研究部 研究理事
チーフエコノミスト・経済研究部 兼任