最新記事

新型コロナウイルス

日本版ロックダウンでできること、できないこと

2020年4月6日(月)21時30分
北島 純(社会情報大学院大学特任教授)

都市の局所的な封鎖は現行法でも可能だが(2019年5月のトランプ大統領の来日時、東京都内) Issei Kato-REUTERS

<いよいよ緊急事態宣言、そして日本版ロックダウンが始まろうとしている――が、交通封鎖も不要外出者の処罰もできず、その実効性は疑問視されている。国民の命を守るため「緊急事態基本法」整備の必要性を本気で考えるべきときだ>

いよいよ緊急事態宣言が出されようとしている。これまで日本政府は緊急事態宣言を出すべきか出さざるべきか、という壮絶なジレンマに直面してきた。新型コロナウイルスの感染爆発を食い止めるには都市封鎖(ロックダウン)が必要だが、東京や大阪が本格的にロックダウンされると、社会的混乱に加えて甚大な経済的損失が予想されるからだ。

明日出される見込みの緊急事態宣言、そしてそれに伴う日本版ロックダウンには「法律上の強制力」がない。鉄道や道路は通常通りに機能する。新型インフルエンザ特措法には土地建物などの強制収容(即時執行)規定や必要物資の保管命令などに関わる罰則規定はあるものの、他に行政ができるのは基本的に「要請と指示」であり、違反に対しては氏名公表などの方策を取りうる程度だ。感染症法33条を使えば感染エリアの交通を遮断できるが、72時間限定の措置であり局所的で大都市の封鎖には不充分だ。確かに、ロックダウンの実効性を疑問視する声には一理ある。

宣言がトリガーとなって起きること

しかし実際には、大企業の多くは交通封鎖なしでも事業を大幅に縮小するだろう。策定済みの事業継続計画(Business continuity planning, BCP)を発動するからだ。BCPとは、地震や台風といった自然災害やテロなどの人災が発生した場合に、企業としてどのように緊急事態に対応するかをあらかじめ定めた行動計画である。企業として重要事業を継続させるために、あるいは被害から1日も早く回復するためにどのような体制・手続をとるかを定めた手順書のことだ。

この中でも特に「感染症の蔓延」という非常事態に対しては、人的資源の確保が最重要だとされている。具体的なBCPは厚生労働省などが2009年に定めた「新型インフルエンザ対策ガイドライン」に依拠している例が多いが、そこでは、いわゆる第三段階(感染蔓延期)には重要業務へ資源を集中させその他の業務の縮小・休止を継続することが求められている。実際にはさらに踏み込んで、製造業では「工場の操業停止」や、あるいは事業会社全般で基幹業務以外に関わる「社員の出勤禁止」(自宅待機)といった手順が想定されていることが多い。

いずれにせよ、インフル特措法に基づく緊急事態宣言が出された場合、それがトリガーとなって多くの大企業は自動的にBCPを発動し、企業活動は大幅に縮小するだろう。その影響で、宣言前と同じような日常生活を送れなくなる可能性は高い。2020年度の実質GDP成長率は前年比マイナス3.1%、感染流行が長期化した場合はマイナス7.4%に達するという試算もある。尋常ではない実体経済の冷え込みが待っていることは必定だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英生産者物価、従来想定より大幅上昇か 統計局が数字

ワールド

トランプ氏、カナダに35%関税 他の大半の国は「一

ワールド

対ロ軍事支援行った企業、ウクライナ復興から排除すべ

ワールド

米新学期商戦、今年の支出は減少か 関税などで予算圧
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中