最新記事

検査

下水から新型コロナウイルス感染症を検知できる紙製デバイスが開発される

2020年4月3日(金)19時00分
松岡由希子

感染者の糞便や尿のバイオマーカーを検知する...... polygonplanet -iStock

<英クランフィールド大学は、下水に含まれる新型コロナウイルスを検知する紙製デバイスの開発に成功した......>

下水から特定の物質を抜き出す「WBE(ウェイストウォーター・ベース・エピデミオロジー:下水に基づく疫学)」の手法は、薬物やアルコール、病原体、農薬といった様々な物質の分析に活用されてきた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大を受けて、この手法を新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染防止に応用する取り組みがすすめられている。

下水道に流入する感染者の糞便や尿のバイオマーカーを検知

英クランフィールド大学の研究チームは、下水に含まれる新型コロナウイルスを検知する紙製デバイスの開発に成功し、2020年3月23日、アメリカ化学会(ACS)の学術雑誌「エンバイロメンタル・サイエンス・アンド・テクノロジー」でその研究成果を発表した。

WBEのアプローチを応用することで、下水道に流入する感染者からの糞便や尿のバイオマーカー(生物標識)を検知し、新型コロナウイルス感染症の拡大の予測に役立てることができる。

米国で初めて確認された新型コロナウイルス感染症患者の症例報告によると、感染者の糞便や尿で新型コロナウイルスが検出されている。

そこで、研究チームでは、下水処理場で使用できる紙製デバイスを開発。手順に従って折って広げ、採取した下水試料からの病原体の核酸をこのデバイスに通すことで、試薬の生化学反応により、新型コロナウイルス核酸が存在するかどうかを検出できる仕組みだ。結果は裸眼で確認でき、緑の輪であれば陽性、青い輪であれば陰性と判断される。

低コストで無症候性キャリアの居住エリアを特定できることが期待される

この紙製デバイスは、地域内に新型コロナウイルス感染症に感染しているが、自覚症状がない無症候性キャリアがいないかどうかを検知でき、早期のスクリーニング検査や隔離、防疫につなげられるのが利点だ。

たとえば、無症候性キャリアの居住エリアを特定し、地域住民に移動制限を課すことで、新型コロナウイルスの拡散を最小限に抑えることができるだろう。

このデバイスは、1ポンド(約134円)未満の低コストで製作でき、軽量で薄いため、積み重ねて保管して輸送しやすい。紙製なので使用後に焼却でき、コンタミネーション(汚染)を防止できる。また、今後の改良により、専門家でなくても使用できるようになる見通しだ。

研究チームでは、これまでに紙製デバイスの概念実証(PoC)を完了させた。研究論文の責任著者でクランフィールド大学のZhugen Yang博士は「近い将来、このデバイスが展開できれば、新型コロナウイルス感染症の現状を即時に可視化できるようになるだろう」と期待感を示している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物、週間で4カ月半ぶり下落率に トランプ関税

ビジネス

クシュタール、米当局の買収承認得るための道筋をセブ

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた

ワールド

トルコ中銀が2.5%利下げ、インフレ鈍化で 先行き
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中