最新記事

新型コロナウイルス

新型コロナ、見えない先行き──どうなれば「小康状態」や「終息」といえるのか?

2020年4月3日(金)13時45分
篠原 拓也(ニッセイ基礎研究所)

いっぽう、2012年9月に初めて患者が報告されたMERS(中東呼吸器症候群)の場合は、SARSに比べて重症化しにくく、不顕性感染者や軽症感染者が一定割合いた。不顕性感染者からの感染力がどの程度あるのか、現在もよく分かっていない部分はあるが、とにかく隔離は必要とされてきた。ただ、残念ながら潜在的な感染者からの感染は、いまも続いているようだ。中東地域で、いまだに感染が終息していない背景には、こうしたことがあるとみられている。

インフルエンザの場合も、潜在的な感染者が問題となりやすい。インフルエンザに感染して症状が出ても、通常の風邪と見分けがつきにくい。このため、なかなか病院に行って診療を受けず、少々無理をして会社や学校に来てしまう。こうした行動により、感染が拡大しやすいといわれている。

それでは、今回の新型コロナウイルスはどうか。現状では、不顕性感染者や軽症感染者が一定程度いるとみる研究者が多いようだ。感染拡大のペースを落ち着かせるためには、潜在的な感染者からの集団感染を防ぐことが必要となる。そのため、潜在的な感染者を念頭に置いた拡大防止策が実施されているのが現状である。なお、感染の実態解明に向けては、引き続き、疫学や病理学の調査・研究が進められるだろう。

どうなれば小康状態といえるのか?

拡大防止策がうまく働いて、最終的に感染症が終息(患者が1人もいない状態)すれば、それに越したことはない。しかし、期待通りにうまくいくとは限らない。専門家の多くは、新型コロナウイルスがエンデミック(風土病として、感染症が地域に一定の割合で発生し続けること)として定着するとみているようだ。

たとえば、ハーバード大学のマーク・リプシッチ教授は、アメリカの雑誌記事の中で、こう予測している。

〈来年までに、世界の40%から70%の人々が、新型コロナウイルスに感染するだろう。ただし、すべての感染者が重症となるわけではない。感染者の多くは、軽症か不顕性感染となるだろう〉
 (The Atlantic誌/2020.2.24)

そこで、現段階では、感染拡大を小康状態に持ち込むことが、当面の目標となる。

政府は2013年に、「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」を公表している。この計画は、今回、新型コロナも適用対象に加えるよう改正された、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づいて作成されているものだ。そこでは、感染症の拡大をいくつかの時期に区分けして、各期に応じた対策を取ることとしている。

まず、海外で感染症が発生した「海外発生期」。次に、国内で初の患者が発生した「国内発生早期」を経て、国内で初めて患者の接触歴が疫学調査で追えなくなった「国内感染期」に入る。この時期には、医療体制を維持しつつ、健康被害を最小限に抑えて、生活や経済への影響をできるだけ小さくすることが、目標となる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中