コロナショックの経済危機はリーマン超え
This Could Be Worse Than 2008
ただし、世界全体との関係を考えたとき、中央銀行の行動には根本的な限界がある。
近年のスワップ協定は、先進国の中でも最重要国に限られてきた。先の金融危機に際して一時的に拡大したときも、FRBのドル供給の恩恵にあずかることができるのは14の中央銀行だけ。そのうち新興市場は、韓国、ブラジル、メキシコだけだった。
中国が米国債を換金?
とはいえ、2008年以降、最も進んだ新興国経済と先進国経済の垣根は、次第に曖昧になりつつある。
パニックが起きると、資金はアメリカを中心とする先進国に流れる。今のところ、ドル建て資産への資金流入は始まったばかりのようだ。しかし、いくつかの新興国市場は既に、深刻な金融逼迫に直面している。実際、新型コロナウイルスの不安が世界的に広まり始めてからというもの、外貨の大規模な流出が続いている。3月中旬までの8週間で、新興国市場から逃げ出した資金は550億ドル。2008年の金融危機や、2013年にFRBが量的緩和策の縮小を示唆して金融市場が動揺した「テーパータントラム」の際の2倍に当たる規模だ。
メキシコやブラジルなど、人口が多くて、公共インフラや財政が脆弱な国は、特に深刻な影響を受けるだろう。
ただし、最も懸念されるのは中国だ。2008年の中国経済はたくましかった。資金流出の影響を受けず、大規模な財政・金融刺激策によって、自国の経済も、中国への輸出に頼る国々の経済も、大きく底上げしてみせた。
FRBと中国人民銀行がスワップ協定を真剣に検討することもなかった。2008年以降、中国はドルではなく人民元を核に、独自にスワップ協定網を確立している。
その中国が経済活動の大部分を閉鎖せざるを得ない事態となり、世界の貿易が大幅に縮小しようとしている今、問題は中国のグローバル企業のドル需要がどこまで増えるかということだ。
2008年以降、中国企業の国際進出は目覚ましく、他の新興国市場の企業と同じように米ドルを大量に借り入れている。中国の外貨準備も膨大だが、現金の米ドルではなく、ほとんどを米国債で保有している。
米債券市場の不安定さを考えると、世界が何よりも恐れているのは、中国がその膨大な外貨準備高を現金化せざるを得ない状況に追い込まれることだ。そうなれば、公的資金によって市場の安定を図ろうとしているFRBの努力は、水の泡になりかねない。
一方で、FRBが人民元を担保に中国と大規模なスワップ協定を結ぶことは、想像しにくい。FRBも米議会の反中タカ派の怒りを買いたくはないだろう。
世界が公衆衛生危機に直面し、経済の安定を守るという共通の利益が脅かされている。官僚の創意が、この危機を政治化したい人々のあからさまな誘惑に打ち勝つことを、願うしかない。
<本誌2020年3月31日号掲載>
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