最新記事

世界経済

コロナショックの経済危機はリーマン超え

This Could Be Worse Than 2008

2020年3月27日(金)16時10分
アダム・トゥーズ(コロンビア大学教授)

magw200326_CSK3.jpg

今や世界の要となった中国経済の活動が麻痺した影響は計り知れない(中国人民銀行本店) JASON LEE-REUTERS


ただし、世界全体との関係を考えたとき、中央銀行の行動には根本的な限界がある。

近年のスワップ協定は、先進国の中でも最重要国に限られてきた。先の金融危機に際して一時的に拡大したときも、FRBのドル供給の恩恵にあずかることができるのは14の中央銀行だけ。そのうち新興市場は、韓国、ブラジル、メキシコだけだった。

中国が米国債を換金?

とはいえ、2008年以降、最も進んだ新興国経済と先進国経済の垣根は、次第に曖昧になりつつある。

パニックが起きると、資金はアメリカを中心とする先進国に流れる。今のところ、ドル建て資産への資金流入は始まったばかりのようだ。しかし、いくつかの新興国市場は既に、深刻な金融逼迫に直面している。実際、新型コロナウイルスの不安が世界的に広まり始めてからというもの、外貨の大規模な流出が続いている。3月中旬までの8週間で、新興国市場から逃げ出した資金は550億ドル。2008年の金融危機や、2013年にFRBが量的緩和策の縮小を示唆して金融市場が動揺した「テーパータントラム」の際の2倍に当たる規模だ。

メキシコやブラジルなど、人口が多くて、公共インフラや財政が脆弱な国は、特に深刻な影響を受けるだろう。

ただし、最も懸念されるのは中国だ。2008年の中国経済はたくましかった。資金流出の影響を受けず、大規模な財政・金融刺激策によって、自国の経済も、中国への輸出に頼る国々の経済も、大きく底上げしてみせた。

FRBと中国人民銀行がスワップ協定を真剣に検討することもなかった。2008年以降、中国はドルではなく人民元を核に、独自にスワップ協定網を確立している。

その中国が経済活動の大部分を閉鎖せざるを得ない事態となり、世界の貿易が大幅に縮小しようとしている今、問題は中国のグローバル企業のドル需要がどこまで増えるかということだ。

2008年以降、中国企業の国際進出は目覚ましく、他の新興国市場の企業と同じように米ドルを大量に借り入れている。中国の外貨準備も膨大だが、現金の米ドルではなく、ほとんどを米国債で保有している。

米債券市場の不安定さを考えると、世界が何よりも恐れているのは、中国がその膨大な外貨準備高を現金化せざるを得ない状況に追い込まれることだ。そうなれば、公的資金によって市場の安定を図ろうとしているFRBの努力は、水の泡になりかねない。

一方で、FRBが人民元を担保に中国と大規模なスワップ協定を結ぶことは、想像しにくい。FRBも米議会の反中タカ派の怒りを買いたくはないだろう。

世界が公衆衛生危機に直面し、経済の安定を守るという共通の利益が脅かされている。官僚の創意が、この危機を政治化したい人々のあからさまな誘惑に打ち勝つことを、願うしかない。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2020年3月31日号掲載>

【参考記事】新型コロナ不況でつぶれる国、生き残る国
【参考記事】新型コロナショック対策:消費税減税も現金給付も100%間違いだ

20200331issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月31日号(3月24日発売)は「0歳からの教育 みんなで子育て」特集。赤ちゃんの心と体を育てる祖父母の育児参加/日韓中「孫育て」比較/おすすめの絵本とおもちゃ......。「『コロナ経済危機』に備えよ」など新型コロナウイルス関連記事も多数掲載。

cover200407-02.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月7日号(3月31日発売)は「コロナ危機後の世界経済」特集。パンデミックで激変する世界経済/識者7人が予想するパンデミック後の世界/「医療崩壊」欧州の教訓など。新型コロナウイルス関連記事を多数掲載。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英生産者物価、従来想定より大幅上昇か 統計局が数字

ワールド

トランプ氏、カナダに35%関税 他の大半の国は「一

ワールド

対ロ軍事支援行った企業、ウクライナ復興から排除すべ

ワールド

米新学期商戦、今年の支出は減少か 関税などで予算圧
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中