コロナショックの経済危機はリーマン超え
This Could Be Worse Than 2008
値下げ競争が他部門にも広がれば「負債デフレ」、つまり物価の下落で企業の負債が実質的に増大する現象が起きる。世界全体で企業の負債は2008年の2倍に上っており、この負担が増大すれば世界全体で景気が急激に冷え込む。
流動性確保に走る市場
だが新型コロナウイルスによる景気後退には、減税や政府支出など古典的な財政政策で対処できる。感染拡大の最悪期を乗り切れたら、まずは公衆衛生インフラに投資することだ。今回明らかになったように、どの国も感染症の監視、モデリング、緊急対応システムを大幅にグレードアップし、物品の備蓄や予備能力を拡充する必要がある。それにより建設的な投資機会が数多く生まれ、質の高い雇用が創出されるだろう。
2008年と違って今回は危機をきっかけに成長が見込める部門もある。アメリカのGDPの約18%を占める医療部門はその代表格だ。人と人の接触を避ける必要があるため、非対面型のデリバリーサービスやウェブ会議システムの利用も増えている。こうした部門は危機後も成長するだろう。
とはいえ2008年と同様、景気後退に対処する前に抑えるべき脅威がもう1つある。金融パニックのリスクだ。パニックは景気後退とは違う。今回の金融パニックは3月第2週から始まり、今も市場を揺さぶり続けている。
直接的な引き金となったのは、サウジアラビアとロシアの石油減産交渉の決裂と、その後のサウジアラビアの大幅な増産決定だった。イタリアの感染拡大のニュースに、経済に直結する油価のニュースが重なったため、世界的な信用収縮と、安全な資産への資金逃避に火が付いた。
感染症という異質の要因が経済にもたらした衝撃が、信頼感と信用の崩壊という経済システムの内部崩壊に「変異」しつつあることが、市場関係者にも少しずつ分かってきた。
突然の信用収縮は、ビジネスモデルが弱いにもかかわらず、莫大な借入金によって仕事を回してきた企業をあぶり出す。その経営悪化は、操業停止や雇用喪失、さらには本来なら優良な資産のたたき売りを通じて、経済全体の先行きを怪しいものにする。
こうした企業が借入金の返済に窮すれば、債権者のバランスシートがダメージを受ける(そんな企業に融資していた時点で間違っているのだが)。そしてこの種の連鎖的な破綻に対する不安が、全面的な信用収縮をもたらす。
2008年の金融危機の「主犯」は銀行だった。だがその後、アメリカの大手銀行はバランスシートを強化してきたから、今回は困難に陥るとは考えにくい。だがヨーロッパの銀行は違う。2008年の金融危機とユーロ圏の財政破綻のダブルパンチから、まだ本当に立ち直ったとは言えない状況だ。イタリアの公的債務は今も危険なレベルにある。